おねだり3


 ふと気づくと、イタリアはベッドの中だった。首元まできっちりとふとんがかかっている。
 ゆっくりと起き上がった。ドイツは、窓辺のソファでビールを片手にぼんやりしてた。相変わらず背の高さの間接照明一つだったので、暗くて、その表情まではわからない。
 あのあと、ドイツはなかなか洗面所から出てこなかった。どうしても声をかける勇気が持てなくて、ベッドで待っているうちに寝てしまったらしい。すると、ベッドの中へはドイツが入れてくれたのだろうか……。
「ドイツ」
 声をかけてもドイツはこちらを向かなかった。カーテンは空いていて、窓も少し開いているようだった。ほんのりと冷たい夜風が漂ってくる。
 裸足のままドイツの向かいの椅子に座った。
「ごめんね、俺……」
「おまえが謝る必要はないだろう」
「ううん、ドイツ恥ずかしかったんだよね。無理させちゃった……、ごめん」
「無理はしていない、だが……」
 ドイツは依然目を合わせようとしなかった。
「俺はさ、ドイツにお尻見られても全然恥ずかしくないもん。だからさー、きっと自然と、こうなったんだよ」
 ドイツは弱々しく笑った。
「俺っ、今日はドイツの事言うことなんでも聞くからさー」
 そう言ってドイツの前にまわる。グラスを持っていない左手を両手で掴んだ。にぎにぎと手を包んでも、あまり良い反応は返ってこない。むしろドイツの顔は本格的に窓の外に向いてしまった。
「詫びのつもりなら、その必要はない。おまえの不公平だという言い分は最もだし、女性としたいというのもおかしくない」
「もうそれは忘れてよ、俺ドイツが一番いいよ」
「俺は逃げ出したんだぞ」
 ドイツは早口で不機嫌そうに言った。
「いいって。俺なんかいーっつも逃げ出してるじゃんか」
「重みが違う。ましてや、俺がおまえにいつもしていることなんだぞ」
「うん……、でもいいよ。ドイツのこと好きだから」
「ダメだ」
「いいよ」
 ドイツは黙ったままだった。ビールにも口をつけない。だんだん手を握っているのが気まずくなってくる。
「ねえ、ロビー行かない? 庭まだ開いてるかも」
「明日でいいだろう」
 そう言われてしまうと確かにそうだった。実際イタリアも明日見てみようと話している。
 仕方無くドイツの手を放し、また反対側の椅子に腰掛けた。随分前にイタリアの為に注がれたビールがまだ残っていて、なんとなくそれに口をつける。
「あっ、ドイツさー! 部屋に入ってきてすぐ、何か言おうとしてたよね。俺、遮っちゃったけど、あれって」
「別にいいんだ」
「聴くよ、何?」
「いや…、何を話そうとしていたか忘れてしまった」
 イタリアはその言葉に驚いていた。もうきっと指輪を渡す気はなくなってしまったのだ……。
 それと同時に疑心にもかられた。あれが、もとからイタリアへ渡す指輪でなかった場合のことだ。
 あそこで別れを切り出すつもりだったのなら、イタリアが勝手なことを言っても怒らなかったのに納得がいく。それを別れる理由にだってできるのだから。
 ドイツがセックスを試してみようと言ったこと。失敗して、こうして気まずい状態になっているのも、もしかするとドイツの考えのうちだったのでは−−。
 目の前のドイツは、依然、顔を窓の外に向けたままだった。
 まさかドイツに限ってそんなうじうじしたやり方をするとは思えない。
 だが一度頭に浮かんだその嫌な考えは、消えることがなかった。
「もう寝ない?」
「俺はもう少しこうしてる、寝ていいぞ」
今日はもうセックスをしないという意思表示だろうか。イタリアは落胆し、しかしこれ以上ドイツの機嫌を損ねたくなかったので、軽く就寝のキスをしてから、一人ベッドへ向かう。
 すでにシーツはひんやりとしていた。横になってみたが、どうも落ち着かない。しばらくしてふとんの縁から顔を出し、ドイツに呼びかけた。
「ねー、ドイツ寝ない?」
「一人で寝れないのか」
「うん、さみしい……」
 待ってみたが、ドイツは動く気配がない。
「ドイツー……」
 イタリアは立ち上がり、またドイツの前に戻って膝上に乗り上げた。首に抱きついて、唇を合わせる。咥内を舌で探り、何度も角度を替え貪った。急だったので、ドイツのグラスが大きく傾き、ビールがイタリアの腰にかかる。液は太腿を伝い落ちソファの撥水加工に弾かれ、絨毯にシミを作った。イタリアはキスをやめなかった。
「おい……こぼれ」
「俺のこと、好きにしていいよ」
耳元で囁くと、ドイツはグラスを床に落とした。割れなかったが、絨毯に弧を描くようにして転がった。ドイツはようやく目を合わせる。
「ドイツのヴルストが欲しいな…おっきいやつ…」
言いながら、思い切り片方の腿の上に跨った。肌を密着させ秘部を擦りつけると、本当に淫らな気持ちになってくる。
「……ダメだ」
「お願い」
「…だから」
「他のこと考えられないくらい、めちゃくちゃ激しいのがいいんだ」
手を伸ばし触れたドイツの股間は、もう完全に勃ち上がっていた。


つづく
2012.04.24