※ご注意※
リバ描写があります!!
気持ちは独伊ですが、物理的にドイツさんに指が入っていますので、充分お気をつけください。ドイツさんへの性器の挿入はありません。


















おねだり 2

 その翌々週。
 会議で一緒になったドイツとイタリアは、同じホテルに宿泊していた。ツインだが、 一つのベッドしか使わないことは、もう二人にはあたりまえのことである。
「ふぃー、疲れた…」
 部屋に入るやいなや、イタリアは服を脱いでシャツ一枚になり、きっちりメイキングされたベッドに寝転ぶ。靴は絨毯の床に行儀悪く落とした。
 目を閉じると、窓の外から微かな水音が聴こえた。庭に噴水と、そこから連なる小さな水路があるのが、ロビーから見えた。明日の朝、覗いてみようと思う。
 ドイツがクローゼットを開ける音がする。
 そこからは想像だったが、ネクタイを緩め、上着を脱ぎ、ハンガーにかける。そしてゆっくりとした足取りで、椅子に投げられたイタリアの服を拾い、またクローゼットの前に戻った。
 やがて、衣擦れの音とわずかな靴音とともに、ドイツがベッドへ近づいてくる。ベッドが沈み、ドイツが隣に座ったのだとわかった。
 このホテルは、会議会場からずいぶん離れていた。けれど、ロケーションが良さそうだったので、行きたいと言ったら、ドイツが手配してくれた。
 二人きりの時間をとても楽しみにしていたイタリアだが、少し前にフランスに言われたことが、気になって仕方なかった。
 今まで一度も、挿れる挿れないについてドイツに問われたことはなかった。
 普段なら気にしなかったかもしれない。
 しかし最近イタリアは、どうもドイツが隠し事をしている気がしてならなかったのだ。
 決定的な何かがあるわけではないけれど、違和感は少しずつ積もっていき、イタリアの心を揺るがしていた。一度、何か隠しごとがあるのかと正面から訊いてみたこともある。欲しい答えは返ってこなかった。
「ねえドイツ」
「イタリア」
 声をかけたのが同時で、目を合わせ驚いた。
「なんだ?」
「ドイツ、庭見た?」
「いや」
「暗くてよく見えなかったけど、ちゃんと噴水があったよ。明日見てみようよ」
「そうだな」
 寝転がったまま、座っているドイツと距離を詰めた。昼間は歩くと汗をかくほどの気温だが、夜はまだ肌寒い。にじり寄ってドイツの腰部に肩が触れる。一部分でもとても温かく感じた。するとドイツは逃げるように立ち上がって、窓辺に向かう。窓とカーテンをきっちり閉めると、また同じ位置に座った。何か気に触ったのかと思い、イタリアは今度は寄り添わなかった。
 難航した会議後のドイツは、疲れのせいもあるのか不機嫌なことが多い。八つ当たりというわけではないけれど、何気ないイタリアの行動が逆鱗に触れることもあるので、いつもよりおとなしくしている。
 ドイツと目が合った。
「ドイツも疲れた? シャワー浴びない?」
 イタリアはバスタブに湯を張ろうと起き上がった。二人で泊まる時は、できるだけバスタブのある部屋をとって、一緒にのんびり浸かるのが恒例だったからだ。
「ああ、いや待て。俺がやる」
 ドイツはイタリアの肩を押さえて座らせると、1人洗面所のほうへ向かってしまった。
 なにか違和感を感じながら、イタリアは再び寝転がる。やがて戻ってきたドイツは、また同じ位置に座った。ベッドに丸まったイタリアとの距離は、人二人分ほど開いている。大げさな咳払いが聴こえた。
「なぁイタリア」
「なに?」
「実はな…ずっと考えていたことなんだが」
 ドイツの横顔は真剣だった。言葉につまり、ドイツは大きく息を吸った。それでも続かない。
 ああ、やっぱり……、とイタリアは思った。
 さっき、ドイツをロビーで待っている時に、鞄からペンを借りようとして、探っているうちに見てしまったものがある。いつかイタリアがベッド脇で見た、黒光りする拘束具だった。驚いて、すぐに鞄の口を閉じ知らんふりをして、その場では事なきを得たが……。
 いつもより一回り大きい鞄だったのは、このせいだったのかと、妙に納得がいったものだ。
 イタリアは体を起こした。
「俺も!! 言いたいことがあったんだったー!」
 ドイツが口を開く前にと、やや強引に切り返した。
「そ……そうなのか?」
「うんほら、えっちも慣れてきたしさー。俺も、ドイツに挿れてみたいなーって」
 ドイツは息を飲み、そしてこっちを二度見した。
「お……れに?」
 冗談とは言わなかった。じっと見つめる。
「俺にか?」
「うん、ダメ?」
「いや、ダメではないが……」
 どうも気が乗らないようである。イタリアと同じで、ドイツも今までその可能性を考えたことがなかったのだろう。
「やなんだ」
「そうでは…」
 ドイツの煮え切らない態度に、イタリアは何故かもっと困らせたくなってしまった。フランスの言葉を思い出す。近づいてドイツの両手を力強く握った。
「だって、俺も男なんだよ。いつもやられてばっかりじゃ……なんか不公平?っていうか」 
 ドイツは少し逡巡したあと、そうだな、と言う。
「すまん、ちょっと考えさせてくれ」
 イタリアは勢い良くドイツにキスをする。全体重をかけてのしかかると、なんとか押し倒すことができた。
 どうして考える必要があるのだろう。イタリアにはドイツの反応が意外だった。しぶしぶでも頷いてくれると思ったからだ。そんなに嫌なことなのだろうか。それを、毎回自分はされているのか?
「おい、イタリア」
「だめ?」
「だめというか…、考えたことがなかったから」
 そう口にしたあと、ドイツは慌てて付け加えた。
「いや、すまん、おまえの言うとおりだ。おまえが何も言わないから、俺は甘えてしまっていたんだな」
「だったら…」
 イタリアは唇を重ねる。しかしドイツは後ろに肘をついて起き上がり、イタリアの肩を押した。そしてベッドの上で距離を置くように後ずさる。イタリアにはその拒絶が、想像以上の衝撃だった。
「待て」
「ドイツ、そんなに嫌なんだ」
「待て、湯を止めてくるから…」
 そう言ってドイツは立ち上がった。
「おれ、女の子としてみたい……」
「なん……」
 ドイツがどんな反応をするのか見たかった。ドイツに思い切り怒鳴られたかった。しかし思ったほどの反応はない。ドイツは眉間にシワを寄せたまま、じっとこちらをみて、また目を逸らした。
「……そうだな、それもいいかもしれない」
 心底驚いて、イタリアは声が裏返ってしまった。
「え? そ……そう?」
「好きにするといい。俺は咎めたりしない」
「え……、だってさ、俺達って、その……、付き合って……」
「だが、俺ではどうやったって、女性と同じような感覚をおまえに与えられない。おまえがそれを求めていたとしても、俺は、なにも言える立場ではない」
「そうかな……」
「あたりまえだろ、こんな体でどう同じと思えるんだ」
「あのさ、それってでも、浮気ってこと…じゃない?」
「……そうだが、今話をきいたからな」
「えと……ほんとにいいの?ドイツ嫌じゃないの?」
「だから、なにも言える立場ではない」
「言えるよ」
「俺たちは、普通とは違うだろう。少し関係が複雑になってもやむ負えないと思うが」
「俺だったら嫌だよ、他の人となんて…」
「束縛するために、付き合っているわけじゃないんだ。自由にしたらいい」
 ドイツは淡々とそう言って、洗面所のほうへ消えてしまった。イタリアはあまりのことに、呆然とベッドに座ったままだった。ドイツはなかなか戻ってこない。どうやらそのままシャワーを浴びているようだ。
 やがてドイツが出てくる。あまりにも普通だったので、さっきの話など夢のように思った。交代するときに、たまらなくなってイタリアは尋ねた。
 唐突に不安になったのだ。束縛しない?だから女性としてもいい…?まさかそれは、ドイツの……
「ドイツ、俺に隠しごとがある?」
「隠しごと?」
 備え付けの冷蔵庫から、ビール瓶とグラスを取り出したドイツはとても困惑していた。
「おまえ、前もそんなことを聞いたな。何故だ」
「何故っていうか…」
「早く入ってこい」
 背を押されて洗面所にはいる。ぼんやりしながらシャツを脱ぎ浴室へはいると、バスタブには湯が溜まっていた。表面には髪の毛、ちり一つ浮いていない。そこに一人で浸かると、途端に寂しさが沸き起こってきて、泣きそうだった。
 部屋に戻ると、ドイツは窓辺のソファに座ってビールを飲んでいた。
 イタリアが寄るとグラスの一つに注いで差し出してきた。イタリアは喉が乾いていたけれど、胸が苦しくてなかなか喉を通らない。なんだか、別れを切り出されるような気がしてならなかったのだ。
「ごめんね、変なこと言って……」
「いや、いいんだ」
「もう言わないから、忘れて」
「本当に俺は気にしないからな。おまえが、どうしようと…だから」
 ドイツがまた同じことを言ったので、イタリアは堪らなくなって返した。
「俺は、もしドイツが他の人とキスしてきたって言ったらもうしたくないよ」
「しかしな、だから…俺では」
「付き合う時にさ、約束したじゃん…。会ったら絶対一回は愛してるって言ってほしいって。いつのまにか、なくなっちゃったけど……。それって俺を束縛してるって思ったの?」
「そうではないが」
 だがこれではまるで必要ないと言われているみたいだ。
「俺がしょっちゅう電話するから…嫌になっちゃった?」
 ドイツは深く溜息をつく。ビールのグラスを置いた。イタリアの隣まで来ると腕を引っ張る。ベッドへ行こうと言うのだ。
「俺……」
「おまえの気持ちは分かったから。試してみるといい」


 熱いキスを交わす。部屋の灯りは、小さな間接照明ひとつだけになった。 しばらく体をまさぐりあって、ベッドに横になる。その時点で膝にふれたドイツの性器はひどく張り詰めていた。自分はというとまだ半分ほどだったので、少し焦りながらドイツの股間に手を当てた。
 いつもとそう違うことをしているわけではない。けれど自分が入れるのだと思うと、なんとも言えぬ高揚感があった。ドイツがいつもしてくれることを思い出していた。そうだまず指を入れるんだよね…、と、だがしかし、唾液をつけたくらいではどうにも自分の指が入っていくとは思えない。ドイツはいつもひんやりしたものを一緒に塗っていたけれど、あれはなんだったっけ…?
 イタリアが考えこんで動きを止めると、ドイツはすぐに気づいて鞄の中から小さなボトルを取り出し、イタリアに渡してくる。
 イタリアは、うつ伏せのドイツの上に覆いかぶさった。うつ伏せになったのは、ドイツがこのほうがやりやすいだろうと、自ら判断したためだ。イタリアはなんとか尻の割れ目に手を添わせ、その入口に指を這わせた。しかし、想像していたよりも肛門という感じではなく……。よく考えたら、自分の肛門にだって、指をいれたことはない。
 本当にここに入れていいのか不安になった。いちいちドイツに質問していると、ドイツは少し呆れた声で、全てを説明してくれた。
 指は入った。ドイツは眉をしかめじっと何かに耐えている様子だ。気持ちよさそうには見えない。自分の最初の頃を思い出せなかったが、今ではドイツの指でいじられるのは大好きだ。すごく感じるし、余裕のあるドイツは、優しい声でいろいろと語りかけてくれる。
 次第に、ドイツが顔を伏せたままなので、怒っているんじゃないかと不安になってくる。問いかけると、ああ、とか平気だ、など返ってくるが、とてもそっけないものだった。
 それにしても……、指を一本入れるのも躊躇われる。
 ドイツの体のほうが大きいからはいりやすいのでは、という想像を勝手にしていたが、とてもそんな気はしない。むしろ、この信じられないほどに固く引き締まった臀部の肉と同じように、肛門もしっかりと引き締まっているのだろう。だからこんなにも、きついのだ。
 得体の知れない怪物の口に、自分の性器を差し出すような気持ちになっていて、いつのまにか雄はふにゃりと垂れ下がっていた。少ししごいてみたが、挿れられるような硬さにならない。ドイツはイタリアが手間取っているのに気づいてか、顔を上げた。
「どうした?」
 イタリアの下半身を見て状況を察したのか、ドイツは手を付き上体を起こした。
すぐに雄に手を伸ばしてくる。
「……緊張しているのか?」
「う……うん、そうかも……」
「大丈夫だ、あまり意識するな。いつもと同じような気持ちで…」
 ドイツの手が触れると、イタリアはの雄はすぐに力を取り戻した。それを確認したドイツは、イタリアの口もとにそっとキスをする。よく頭を撫でると、またうつ伏せになった。
イタリアは肩透かしをくらったような気分になった。背中ばかり見ていてもつまらない…。
「ドイツー、こっち向いてくれない?」
「…やりにくいぞ」
「うん、いいからさ……」
 ドイツはそれから、一向に動こうとしなかった。肩に手をふれ、仰向けにしようとすると、抵抗がある。
「ドイツ?」
「このほうがやりやすいはずだ」
「ドイツの顔が見たいんだもん」
「……勘弁してくれ」
 ドイツの背筋が大きく隆起した。起き上がると、先ほどと同じようにイタリアの股間をしごく。あっというまに追い詰められ、果てるとすぐに押し倒され、濃厚なキスがあった。ドイツは顔を真っ赤にしてバスルームに消えていった。
 
***

 一人ベッドに残されたイタリアは、茫然とするばかりだった。
 けれど最後の顔を思い出すと、ドイツを傷つけてしまったことは確かだ。こんなふうになるなら、縛られてのセックスのほうが、まだ良かったかもしれない。
(謝らなきゃ……)
 イタリアはそう思いベッドから足を下ろした。しかし普通に謝ったくらいで許されるのだろうか。 
思いつき、椅子の上にあるドイツの鞄を探った。例の拘束具を自ら準備して待っていよう。しかし、袋から目星をつけて取り出したそれは、ただの黒いベルトだった。どうみても普通の衣服につけるものだ。
「あれ……」
 イタリアは驚きつつも考える。ドイツは使おうと思って、イタリアがバスルームにいるうちに、どこかに移動させたのかもしれない。枕の下、ナイトチェストの引き出し、末はクローゼットまで探した。
 すると、ドイツのスラックスのポケットに、何か硬いものが入っていることに気付いた。ダメもとで取り出してみると、それは手の平より小さい、箱だった。
 表面はワインレッドのベロアで覆われ、一目で、装飾品のケースだと気付いた。
 おそるおそる開けてみる。中は指輪だった。宝石はついていないシンプルな銀の…。だがどう素人目に見ても、安物でないことは分かった。急いでそれをポケットに戻し、クローゼットの扉を閉めた。
 部屋に入ってすぐ寝転がって側に寄った時、不自然に窓を閉めに行ったドイツ。その時はまだ着替える前だったから、ポケットにはこれがーーー
(わああああああ)
 イタリアは顔を覆ってうずくまった。ドイツはきっとこれを渡そうとして挙動不審だったのだ。
 いつのまにかこぼれていた涙をぬぐう。なんて説明をしたら……? 
 全部話したら、またそそのかされたのかと怒られるし、それにもっとドイツのことを傷つけてしまうだろう。
 一体どうしたらいい。

つづく
2012.04.23