快晴の休日、連絡もせず遊びに来ると、庭で犬たちと戯れているプロイセンを見つけ少し遊んだ。ドイツは二階で昼寝していると言われイタリアは嬉々とした。仕事が忙しいという話を聴いていたから、きっと疲れているのだろう。こんなチャンスはめったにない。静かに階段を上がり、部屋に入る。ドイツの部屋は、午後になるとよく陽が差し込む。とくに春先はシエスタをするのに最適な場所だ。
 服を脱ぎベッドに潜った。ドイツの背に抱きつくと体温が心地いい。毛布は陽光でふんわりしていたし、空気がやや冷たいのも気にならない。静かに目を閉じると、二人の呼吸が同化していくような錯覚がある。
「…イタリアか?」
「ふぁいふぁい」
 ドイツの匂いを嗅ぎながら横になっていると、まるで抱きしめられているようだった。
「もう暖房いれてないよね? ここすげーあったかいや」
 ドイツは枕元に丸まっていたタオルケットを、イタリアの首元にかけた。
「肩をだすなよ、こういう時期は風邪をひきやすい…」
「ありがとー。起こしてごめんね」
「いや、俺はもういいんだ。少し寝た」
 肘をついて体を起こし、イタリアの向こうにある置き時計を見ながら言う。イタリアはすぐにドイツの手を掴み引き止めた。
「じゃあもう一時間付き合って〜。俺ここで昼寝するの大好き」
「……仕方ないな」
 ドイツは再び背を向け横になる。あっさり受け入れたところをみると、やはり疲れているのだろう。特別なことをして労りたい気持ちがあったが、いい案が浮かばない。離れていると色々思いつくのに何故だろう。
「ドイツのベッド大好き」
「普通のベッドだぞ。もう少しコイルがうるさくなったら、さすがにマットを取り替えなければ」
 マットの具合が良いとか、そういった意味ではなかったが、ドイツにはよくある取り違えだった。微笑ましく感じたので、イタリアはにんまりしたまま静かにしていた。
 庭から犬達の鳴き声が聴こえてくる。その向こうで微かに鳥の声。
「俺、夕方までこうしてたいなぁ」
「夜眠れなくなるぞ」
「大丈夫、寝ないで、こーやってるだけ〜」
「そう言ってもな…」
「ドイツ、こっち向いて」
 ドイツは肩越しに少し振り返って訝しげな表情だったが、やがて仰向けになった。耳の後ろに無理やり鼻を近づけると、くすぐったいのかドイツは笑う。
「バカ、なにやってるんだ」
「わんわん」
 息を切らし犬の真似をして耳元を探ると、ドイツは何かツボにはまってしまったらしく、やめろと言いながら声を上げ笑っていた。自分の行動にこんなに笑ってくれたのは久しぶりで、イタリアは調子にのって頬も舐める。
「ドイツー、エサちょうだいワン、お願いワン」
「落ち着け、ほら」
 胴に手を伸ばしてきたので、そこに収まるように体を寄せる。覆いかぶさると、ドイツは背を抱きしめてきた。
「エサちょうだいワン〜」
「ない、あとでな……」
 ドイツの顎に向かって大げさに唇をつきだすと、口もとを塞がれた。触れた手のひらをぺろぺろ舐めると、またドイツが吹き出して笑う。それを見てイタリアも頬が緩んだ。
 ドイツはふいに体起こし、ナイトテーブルの一番上の引き出しから何か小袋を取り出した。目の前に現れたのはレモン色をしたグミだ。ドイツの家ではよく見かけるもので、ベアの形をしている。
 口もとに差し出されたので顔を近づけると、ドイツの指先が唇に触れた。グミを食べてしまうと、ドイツの左手にある袋に視線をやってから、もう一個とねだる。袋は食べかけだったようで、グミは5つほどでなくなってしまった。
 最後の一つを食べた後、遠ざかっていくドイツの手首を掴んで指先を舐めた。
 人差し指の途中まで口に含む。ゆっくり舌先を揺らめかせると、ドイツと目が合った。胸が高鳴る。こんな行為を止めもせず、許してくれていること事体、今までなら信じられなかった。いつも自分を抱き寄せてくれる手だと思うと、指の節すら愛しい。イタリアは微笑んでから目を閉じ、よく感触を味わった。チュッと音をたて唇を離すと、やがてドイツは再び胸に抱きしめてきた。
嬉しくて首に頬ずりをしていると咳払いが聴こえる。
「おまえ、今日は何か予定があったんでは…」
「すっごく会いたかったんだ」
 ドイツはしばらく黙っていた。
「泊まっていくか?」
 いつもと似たようなやりとりでも、意味は全く違っていた。ただベッドを借りるだけではない。恋仲になった二人が、初めてベッドを共にする夜だった。

つづく
2012.04.12