人には言えない・続き2



「ドイツ、入るね〜」
 小さな声でそう聞こえたあと、衣擦れの音がして、やがて声の主がベッドに上がってきた。夜中に到着した場合、大抵おとなしく寝るのだが、今日は違った。もぞもぞと背に近づいてきたあと、首筋に口付ける。
「好きだよ」
 イタリアはそう言いながら肌にキスを繰り返し、やがて体を起こし耳にも触れてくる。熱い吐息が耳に入ってくると、さすがに無視するわけにもいかず、軽く手で払った。しかしやめようとしないので、今度は自分で耳を塞ぐ。イタリアは手の甲を舐め始めたので、仕方なくその顎をつかみ、そのまま力を入れ仰向けに押し倒した。
「寝るんだ、イタリア」
「うむー」
 返事を聞き、再びイタリアに背を向け丸まった。そういえばこのあいだ、真夜中に電話をしてきたな、と思い出す。尋ねるタイミングを逃してしまったが、なにかあったのだろうか。朝になったら聞いてみようと思った。
「ね〜ドイツ」
「寝るぞ」
「大好きだよ……、俺のこと好き?」
 こういうイタリアに、付き合ったらきりがない。寝たふりをしていたが、イタリアはさらに質問を重ねた。
「ねえねえ、すき? 寝ちゃった? ドイツ」
 肩を揺すぶってきた。それでも無視を続けた。
「好き? ねえドイツ〜。好き……?」
 そうやってしばらく続けていたが、反応のない相手に飽きてきたのか、次第に声は小さくなっていった。そのまま寝てくれるようにと念じる。
「ドイツ、キス……していい?」
 さっきから散々しているだろうと思いながら、目を閉じ続けた。
「いいよね〜」
 そう言ったイタリアは、ぐいと体の上に乗ってきた。きっと胸板の上に頭を乗せたいのだろうと思ったが、意地でも従うものかと力を入れ、微動だにしなかった。しかし予想はあっけなく裏切られる。
 イタリアは本当に唇を塞いでいたのだった。今までも口と口で触れたことはあったが、ほとんど事故のようなものだったし、気にすることではなかった。しかし、このキスには、明らかにイタリアの意志が込められている。熱心についばまれ、しばらく呆然としていたが、ようやく我に返る。腕でイタリアの胸を押し、遠ざけた。
「おい……」
「ヴェへへ〜」
 イタリアの顔はよく見えないが、声だけでそうとう調子にのっているんだろうとわかる。枕元の明かりをつけると、そのまま体を起こした。
 イタリアは想像通り笑顔だった。そして、そわそわと落ち着きが無い。
「イタリア……」
「ねえドイツ! ……俺、大好きだよ」
 こっちの不機嫌などまったく介さない様子で、今度は思い切り抱きついてきた。人差し指で、ゆっくりと腹筋をなぞってくる。
「俺さ、ドイツが照れ屋なとこも、実は結構好きなんだー……。だってなんか、かわいいよ〜ヴェ〜」
 ニコニコと笑って、胸に顔をすりつけてくる。何があったかは知らないが、機嫌が良すぎてこんな行動になったのだろうか。寝起きの頭では、イタリアを嗜めようにもありきたりなフレーズしかでてこない。
「……いい加減にしろよ。寝るんだ。話は明日聞いてやるから」
「ふぁいふぁい」
 返事をしたイタリアは、全く離れる気がないようだった。引き離しても、またくっついてくるのだろう。その攻防を繰り返すのは面倒に思え、イタリアを抱えたまま、電気を消して寝ることにした。


つづく
2013.01.06