【ご注意】 独×伊で18禁です。
18歳未満のかたは閲覧をお控えください。
それと最初に無理矢理の場面があります。ハッピーエンドですが、苦手なかたはお気をつけください。
100万回Tiamo
※最初に無理矢理の場面があります。ハッピーエンドですが、苦手なかたはお気をつけください。
1
枕に押し付けられた口から、くぐもった声が聞こえる。
目の前でイタリアの背中が綺麗にしなる。俺が体を揺らすたび一緒に動く。
その手は必死にシーツをにぎりしめ小さく震えている。うつ伏せの顔は枕に押し付けられていて、こちらからでは全く表情が分からない。
「っ、ドイツ……」
声から察するにイタリアは泣いている。
最初のうち、少し抵抗はあったものの、力で敵わないと理解したのか、それからは従順だった。俺を責める言葉は一つとして吐かなかったが、当てつけのようによく泣いた。そもそも、部屋に入って来た時から泣きそうな顔をしていたのだ。
実際の挿入は、想像の何倍も気持ちがよかった。
けれど肉体の快楽よりも、イタリアをいたぶっているのだ、という事実が興奮を煽っている。
一旦精を吐き出してしまえば、嗜虐心は一気に薄れた。今更イタリアの様子が気になって、腰に触れた。艶かしい声を出していた気はするが、今思い出そうとすればまるで幻聴だったようにも思える。シーツはイタリアの液によって汚れていて少し安堵した。だが、イタリアがいつ吐精したのか、それすらもわからないほど俺は身勝手で乱暴な抱き方をした。
本能なのかなんなのか強烈にキスをしたくなったが、自分がした行為とあまりにもかけ離れているような気がして思いとどまった。結局、ゆっくりと雄を引き抜きイタリアの上から退いた。
うつ伏せのまま短い息を吐き出し、なかなか起き上がろうとしないイタリアのことが心配になる。
熱が引けば、俺が一番憎むべき構図を作り出してしまったことに気づいた。
俺とイタリアの間には大きな力の差がある。
イタリアが本気で抵抗したところで、俺は簡単にねじ伏せることができる。
力をふるって、弱い者を屈させることは、まるで暴力だった。
イタリアは俺から離れていくだろう。
今更、おそろしくてたまらなくなる。あえて嫌われるようなことをした。それは自分だったが、割り切れない何かが心に渦巻いていた。
全ての始まりは、一ヶ月前の出来事だった。
戯れなのかもしれない。
あとからそう思ったが、あまりにもはまりすぎているその光景に俺は見とれてしまっていた。どうしても眼が離せなかった。
ある日曜の朝だった。イタリアが来ると連絡を寄越していたので相手をしてやれるように、日曜までにすべての仕事を片付けておく予定だった。しかし予定はずれ込み、結局今日の朝、外が白んできた頃に、ベッドへ潜ることになってしまった。
目が覚めて時計を見れば十時半。居間に降りて行くと、掃除をしたあとなのか、戸や窓はすべて開け放たれていて、爽やかな風が家中を巡っていた。
快晴の暖かい日だった。部屋の中にイタリアの茶色い頭が見える。
ソファに深く腰掛けるオーストリアの上に、イタリアがのしかかっていた。
オーストリアは、こちらから見ればやや背面だったが、動揺ひとつせず、イタリアと向き合っているのが見て取れる。
イタリアは唇を重ねた。笑顔だった。
なんの気負いも感じられない二人の様子は、まるでそれがあたりまえのことのように感じさせる。
部屋に少し強い風が吹き込み、カーテンが揺れたタイミングで俺は眼を逸らした、息を止め、足音を消してその場を離れた。
美しいものを見つけた。だが心の底の何かを根こそぎ奪われたように感じた。
変に脈打つ胸を強く押さえ、階段を静かに上がり、やっとの思いで自室に戻った俺が考えた事は二つ。
あの様子では、二人がきっと初めてではないのだろうということと、そしてそれ以上の肉体関係を持っているのではないかという懸念だった。
イタリアは、幼い頃オーストリアの家で暮らしていたという。
その印象から家族のような関係だと思い込んでいたから俺の衝撃は大きかった。
そして勘違いしていたのだと気づいた。イタリアは俺に会いにこの家に来ているわけではないのだと。
俺を口実に、オーストリアの様子を窺いに来ているのだ。そう気づいた時の、俺の心情といえばひどいものだった。イタリアに裏切られたような気さえした。怒りにも似た感情が湧いた。足に力が入らず、ふらふらとベッドに腰を下ろす。イタリアが来ることを喜んでいた自分が馬鹿らしい。そのために必死で時間を作ろうとしていた。
その日の夜からだ。
俺は自慰のときに、イタリアを思い浮かべるようになり、そして想像の中でひどい言葉をぶつけていた。俺を蔑ろにした罰だと言って、卑猥な行為を強要した。そこでのイタリアは泣いて俺に許しを請う。しかしいくら責めても、俺が望む言葉はイタリアの口からは出てこない。よって許すことはできなかった。
***
ふがいないことに、俺は何日経っても真相を訊く勇気が出ずにいた。俺があの時あの場にいたことは、二人は全く気づいていないようでなんの反応もない。
そうなれば知らないふりをするのは容易く、俺はいつもと変わらない態度で、オーストリアに接する事ができた。ただ、オーストリアがイタリアに向けたここ数ヶ月の言動を懸命に思い出そうとした。その中に色を含んだものがないか頭の中で照らし合わせては、ホッとしたり、また気分が悪くなったりした。
オーストリアは一緒に住んでいるせいもあってか行動パターンが読めたし、必要最低限の接触ですむように、俺は立ち回った。オーストリアが積極的に関わろうとするタイプではないので、助かっていた。
しかし、問題はイタリアのほうだった。
俺は、イタリアがいつまでたっても俺の不機嫌の理由を察しない事を憎々しく思った。
もちろん、あの現場を目撃されたなんて思っていないだろう。俺がなんの説明もしなければ、察するなど到底無理というものだ。それはわかっていたはずだった。それなのに俺は、身勝手にもそう思い続けた。
ほんの少しいつもより冷たくした。
言葉を短くした、眼を合わせなかった、話を聞いていないふりをした。
最初は些細なものだったと思う。
そして、少しだけイタリアが傷ついて、俺たちの関係が変わればいいと思っていた。
結局のところどうなりたいのか、それは俺にもよくわからない。
しかし、俺がイタリアに対して気を揉み、苛々しているのは以前からよくあることだったので、イタリアは全くと言っていいほど俺の思惑を意に介さなかった。それどころか、そうやって俺が作った距離を本能的に埋めようとしているのか、以前より頻繁に家にやってくる。
そして、あのキスを目にしてから三週間後の日曜日、帰り際、イタリアが満面の笑みになり、玄関先で俺を見上げた。
「来月さ、旅行しない?」
「旅行?」
突然の申し出に、俺は驚いて固まっていた。
「実はねー、もう予約とってあるんだ、おまえの予定、ちゃんと調べたよ」
渡された日程表を見て息を飲んだ。俺の都合に会わせて組まれていて、なんの不都合も無理もない。行き先は避暑地である。行ってみたいと、いつかイタリアに話した覚えがあった。
少し前までならすぐに頷いただろう。だが、今はもう無理だった。手にした書面を見てわざとらしくため息をついてから、イタリアを見た。
「残念だが……、この二日目、朝から出張になっている」
「えーっ」
イタリアは悲嘆の声をあげた。
「休みじゃなかったの?」
「いや、休みだった。だが昨日、急に連絡が来てな。本来会議に出るやつが行けなくなって、替わりに俺が……。もう了承してしまった。だからといって俺と替われるようなポストの者はもういないのだ」
「そうなのかぁ……」
イタリアは眉尻を下げ項垂れた。俺は驚くほど胸が痛んだ。妄想の中であれほど痛めつけ泣かせて、それでも満足しなかったというのに、現実ではこれである。
イタリアの沈んだ顔を見るだけで、その瞳から涙がこぼれ落ちたりしないか、ハラハラして目が離せない。
「あーあ、ショックだよう……」
俺の胸がスッとしたのはほんの一瞬だった。
よくよく考えれば日程表など、行き当たりばったりのイタリアが作るとは思えない代物だった。俺との旅行であるから、性格を考慮して作ったのだろう。そのことに気づくと、俺はとたんに嘘をついたことを後悔し始めた。
俺の行きたいと言った場所を覚えていてくれて、一人でここまで旅行の計画を練ったのだ。それだけでも普段なら俺は喜びイタリアを褒めていただろう。
「……悪いな」
「ううん、仕方ないね」
イタリアは柔らかく微笑んだ。俺は、この笑顔が大切なものだったと唐突に自覚する。
つづく
2010.010.01