友情連作

 友情/ムキムキ


「ドイツドイツー、入るよー」
 申し訳程度のノックと同時に、すでにドアを開けていたイタリアは、ベッドの上の人物を確認して眉をひそめる。右腕を腰に預け、左腕一本で腕立て伏せをしていた。
「熱心だぁ」
「今日のノルマをこなしていなかったんだ。いろいろ呼び出されることが多くてな」
 寝る直前になって思い出したのか、ドイツは、すぐに休めるような格好だった。イタリアに答えながらも腕立てのペースは落ちない。イタリアは枕を抱えたまま、ベッドの端に腰かける。
「もう日付変わっちゃったよー」
 関係ないと言葉を無視して、ドイツは腕立てを続けていた。足をぶらぶらさせ暇そうにしているイタリアを一瞥して、ドイツは言った。
「イタリア、乗れ」
「えっ、うん」
 頷いたイタリアはいそいそとベッドにあがる。
 初めてではないので、やるべきことは分かっていた。ドイツの背にそっと腰を下ろす。
 ドイツの体が上下するのと一緒にイタリアも揺れだした。
「おい、太ったか?」
「一、二キロだよ、そんな変わってない」
「うむ……」
 ドイツは、それを自らの衰えと思ったのか顔をしかめた。終わるところだったのを二十回追加してから、ようやく動きを止める。腕から力を抜くと、うつぶせのまま少し休んだ。背には依然イタリアが乗っかっている。
「終わり?」
「ああ」
「寝よ寝よー」
 そう聞こえたものの、背中から重みがなくならないことを、ドイツは不思議に思った。イタリアがもぞもぞと体勢を変えていることに気づく。顔だけ振り返って確認すると、背の上で横向きに丸くなろうとしている。
「重いんだが」
「協力したから、ごほうび」
「おまえが暇そうにしていたからだろう」
「いらなくなったからってひどいよー」
 イタリアは笑っている。会話の内容に重きはなく、ただしゃべっていたいだけらしい。
 ドイツもそれをわかっていて、本気にはしなかった。小さくため息をついて、イタリアを落とそうと体をよじる。
「あー待って、もうちょっと」
「何がだ。寝るぞ」
 いったん体から離れたイタリアは、今度は尻にむかって頭を預ける。感触におどろいて、ドイツは思わず声が震えた。
「ばか! 何やってる」
「あ、すごくいい感じ〜、柔らかーい。柔らかくってムッキムキー。それでいてあったかい……」
「おまえ女が好きなんだよな」
 起き上がり、その顔を片手で掴み退かしてから、ドイツは呆れたように言う。
「え?」
「だったらこんな誤解を招くようなことは」
「頭乗っけただけじゃんかー」
 それが問題だと怒鳴りたいのをぐっとこらえて、イタリアの頬をつねるだけにとどめた。どこまでが友情のスキンシップで済まされるのか、ドイツにはわからなかった。
 イタリアは平気な顔をする。きっと本当に下心などないのだろう。
 ただ自分のやりたいことを、やりたいようにやっている。この無邪気さを可愛いと思ってしまったことは、一度や二度ではなかった。
 
                    2010.10.19