番外

「ふ…ふむぅ……」
 イタリアがおずおずと差し出してきた舌を舐め、ゆっくりと絡めとった。
 とにかく驚かせないようにしなくてはと、ドイツはイタリアの肩を撫で続けた。今は奇跡的に、お互いの気持ちが同じように高まっている。だが、何か不純物でも混じれば、一瞬でこの雰囲気がなくなってしまう気がした。
 なんとか一度顔を離し、顎のラインをたどって、首筋に口づける。しばらく巡回して、再び唇に戻ってくる。イタリアの唇は、何か吸い付くものを求めるように動いていた。
 キスマークを見てしまった後、もう二度と優しくしないだとか、せがまれてもハグをしない、嘘の予定を作って避ける、無視をするだとか、出来る限りの意地悪を頭に思い浮かべていた。イタリアの傷つく顔を想像して、自分を慰めていた。
 幼稚なことだと理解していた。愚かだとも…。だがそうでもしなければ、イタリアが誰かと裸で絡み合っている想像が浮かび、気が狂いそうだった。何度かまくらを殴ったが、解決することなどひとつもない。一年待ったのに、やすやすと他人にもっていかれるのは辛抱ならなかった。
 そう一人でくさくさしていた数時間前とは、雲泥の差だった。
 イタリアとベッドの上で抱き合い、口付けを交わしている。
 一応、フランスと行為に及んでいないのか確かめるという名目だったが、そんなことは意識していなかった。
 しっかり顔が見たいと言われたので、ナイトテーブルのランプは点けている。
 舌が入ってくるのを待ち、しばらくしてその願いが叶った時、そこに愛のようなものを感じた。ドイツは胸を高鳴らせ、それに応える。イタリアの舌は稚拙な動きで歯列をなぞり、上顎をちろちろと舐めてくる。漏れ聞こえてくる鼻息が本当に愛らしい。
「ん…んぅ…」
 上ずった声が聞こえ、思わずイタリアの腰に手をやった。 太腿、脇腹も優しく撫でてやる。イタリアはくすぐったかったのか、少し笑顔になる。そのことにほっとして、もう一度首筋に、鎖骨に…胸へ、キスを落とした。反応を気にしながら、とにかく丁寧に体を触った。
「どいつ…、」
 イタリアが、うなじから後頭部を撫でてくる。目が合うとはにかんだ。
 大したことをしていないのに、緊張で上手く呼吸ができなかった。ドイツは息を整えてから言う。
「大丈夫か?」
「うん」
 柔い頬に口付ける。脇から胸を愛撫し、さりげなく突起に触れると、イタリアは大きく体を震わせた。その仕草は拒絶のようにもとれて、ドイツは身を引く。
「イタリア」
「大丈夫だよ…」
 イタリアは、離れてしまったドイツの手首を掴み、もう一度胸の上に充てがう。
「ごめんね、触って……」
 おそるおそる手を動かした。突起をゆっくり捏ねると、徐々に形がしっかりしてくる。両方を摘み愛撫するうち、イタリアは目を閉じ、たまらなく甘い声を漏らすようになった。頬も赤く染まる。腹の辺りに触れているイタリアの股間が、いつのまにか盛り上がっていた。もちろんドイツ自身も、限界まで熱く張り詰めていた。
「あ、…んっ」
 声を聞くたび、すぐにでも挿入したくなり、腰が疼いた。急いてはいけないと何度も言い聞かせ、冷静を装う。
 イタリアの胸の位置まで顔を下げると、目的の箇所にじっとりと舌を這わせた。包みこむように優しく舐めてやり、硬くした舌先でくりくりと弄ってやる。そのたびに漏れる、くぐもった声が耳に心地いい。
「あ……、うぅ…ん、どいつ……」
「イタリア、……いい子だ」
 何故かそんな言葉が出てきてしまい、言ったあと、燃えるように顔が熱くなった。
 ごまかすために、懸命に胸を愛撫する。片方を舌先で弄びながら、もう片方も、丁寧に指先で摘んでやる。肌は温かく、しっとりと手に馴染む。
 乳首は長年見慣れていたが、さすがに口に含んだことはなかった。ぷくんとした膨らみは、指先で隠れてしまうほど小さいが、よく愛撫したせいか、それとも灯りの具合なのか、いつもよりほんのり明るい桃色に見えた。ますます興奮する。
「んっ、んぅ……あう……」
「嫌じゃないか…?」
「きもちいいよ……、ずっとこうしてて」
 愛撫により熱が入る。
 そっと吸いつき唇で食み、舌で味わう。繰り返すうち、イタリアの腰がもどかしそうに揺れた。
「ちんこ勃っちゃった……」
 さっきから当たっている、といつもの調子で注意しそうになり、だが、わざわざ言ってくるイタリアが強烈に可愛くも思えた。なんとか心を落ちつける。
 ドイツは一瞬躊躇ったものの、体を起こし、一気に下着を下ろした。取り出したものは腹につきそうなほど立ち上がり、膨張している。イタリアの視線を感じて、より硬度を増した気がした。先端は期待で湿っている。ゆっくりとそれをイタリアの股間に付ける。下から押し上げるようにして、互いをぴったりと合わせ握った。
「ん…」
「動いてもいいか…?」
 意図はわかったようで、イタリアは頷く。
「ドイツのでっかい……」
 本来誇るべき所ではあるが、イタリアにしてみれば、いろいろな事体を想像してしまうだろう。
「すまんな」
 何度か擦りつけるうちに、互いの息が荒くなる。イタリアはシーツを握りしめていた。
「あ、おれ、もう…!」
 イタリアが射精してしばらくすると、ドイツも達することができた。その精液がイタリアの腹にかかるのを見て、征服感と、少しの罪悪感を覚えた。
 ティッシュで拭いながら、ちらとイタリアを見ると、脱力して目を閉じていた。口だけが半開きで、荒い息をしている。
「平気か…?」
 イタリアは少し上体を起こして、笑顔で言った。
「気持よかったよ」
 近づいてきてキスをし、甘えるように首へ抱きつく。
「好き……」
「イタリア……」
 ローションをたっぷりとつけ中をいじり始めた頃には、イタリアもようやく緊張がとけてきたのか、リラックスした表情になっていた。よくしゃべるようになり、『大好き』も連発するようになったので、挿入までの道のりが、より過酷になった。
 中を弄っていると、イタリアはもう一度射精してしまった。可愛くてたまらなかったが、イタリアは早いことが恥ずかしいようで、しばらく目を合わせなかった。準備を万全にしていよいよ挿入という時、期待は最高潮に達していた。
「嫌だったらすぐに言うんだぞ」
 比較的楽といわれる、後ろから重なる姿勢で覆いかぶさり、ささやいた。
「今日のどいつの声…、優しすぎてイッちゃいそうだよ…」
 耳に思い切りキスをする。すると、その肩が小刻みに震えていることに気づいた。
 ドイツは息を飲み、目を逸らす。一瞬、虐めているような錯覚があった。何も、今すぐ全部を手に入れないといけないわけではないのだ。数時間前までは、キスすらろくに出来なかった。ここで失敗すれば、二度とこんなチャンスは巡ってこないだろう。悩んだ末、目の前の背を優しく撫でた。
「今日はこれで終わりにしよう」
 イタリアはよく聞こえなかったようだ。動きがないことを不審に思ったのか、首だけ振り返った。そこには、ずいぶん扇情的な瞳をしたイタリアがいた。
 口で息をし、頬はわずかに上気している。見つめられると、ドイツは全身が燃えるように熱くなってしまい、ぎこちなく体を離す。いつしかイタリアの震えは収まっていた。ああやはり、とドイツは思う。
 イタリアはうつ伏せの姿勢から、手をついてのろのろと起き上がった。しなる背筋のラインが美しくて、思わず目を逸した。
「ドイツ?」
「いいんだ、今日はここまでだ」
 俯きがちに言う。
 とてもイタリアの目を見られなかった。
「……ヴェ? …俺って、今、嫌だって言ったっけ……?」
「そうではないが」
 イタリアはいまだ起き上がった姿勢のまま、こちらに半分尻を向けている。白く、しゃぶり付きたくなるような柔らかい肌に雄を埋め、更にはその奥に内包されたい。そうは言っても、体は嫌がっているところに、無理にどうこうするのは気が進まなかった。例え合意の上だとしても。
「……シャワーを浴びてくる」
 静かにベッドから足を下ろす。
「ドイツ……?」
 追いすがってくるかと思ったが、慣れない行為に消耗したせいなのか、イタリアはベッド上から動かない。おかげで無事にバスルームまで逃げこむことができた。ドアの鍵を締めた後、手早く自らを処理すると、シャワーを浴びる。だいぶ冷静さを取り戻すことができた。
 三十分ほど経ち、思い切って部屋へ戻ると、イタリアはベッドの上にいなかった。
 心臓が跳ね上がる。同じところで丸まって、寝ているだろうとばかり思っていた。もちろん、隣のベッドにもいない。そこから見える限りに姿はなかった。
 息を飲み、窓際まで歩いてみる。奥のベッドの脇、先ほどの立ち位置からは死角に、イタリアが膝を抱え座り込んでいた。
「イタリア、いないかと……」
「おれ……、シャツめくられて…、ひげがチクチクしてたから、そこで気づいて……。キスだってしてないんだよ。フランス兄ちゃん、寝ている相手に何かしても楽しくないって言ってたから、たぶん何もしてないよ」
 イタリアは俯いたまま喋った。
「それは、もちろん信用している」
「キスマーク、残ってるから…?」
「それは、だから…冗談のようなものだったんだろう」
「うん……」
 それから、しばらくイタリアは黙りこんでしまった。
 ドイツは何を発すればいいのか分からず、イタリアから数歩離れたところで、バスローブ姿のまま立ち尽くしていた。
「おまえも、シャワーを浴びてきたらどうだ?」
 イタリアは顔を上げる。
 目元が涙で濡れていて、口は嗚咽を我慢しているときの形になっていた。
「ドイツ、ずっとしたかったんじゃないの?」
「とにかく、もういいんだ。おまえもまだ酔っているんじゃないか」
「もういいって、なんで? 変だよ急に」
 震えていたからやめたとは言いたくなかった。余計に自信を失わせてしまう気がする。
「な……泣いていないで、とにかくシャワーを浴びてこい。さっぱりするぞ」
「でも」
「何度か射精したようだし、充分だろう」
 イタリアが、目を逸らし気まずそうにする。それを見て失言に気づいた。軽く咳払いをする。
「す、すまん、そういう意味ではないのだ。に…二回だな。二回射精をしたから、おまえの性欲はそれなりに満たされたんではないかという……それだけだ、深い意味はない。本当に」
 ドイツは困り果ててしまった。
 イタリアの隣に並んで腰を下ろし、ため息をつく。せっかく冷静になれたと思ったのに、どうして余計なことばかり言ってしまうのだろう。なんとか上手い言い方はないものか。
「ドイツ、バスルームで自分で出したの…? やっぱり…、俺、変だったから? 男の相手って…、想像と違う…よね」
「あのな、今日まで…ろくにその……キスだってしていないし」
「つまんなかった……?」
「だっ………だからなぁ!」
 イタリアが検討違いのことばかり言ってくるので、つい、いつものように声を荒らげた。イタリアはわずかに肩をすくめた。
「……待っててくれたのにね」
「そんな風に言うな……、馬鹿もの。おもしろがって、やるものではないだろう」
 どうして気のきいたことを、口にできないのか。イタリアを傷つけず、なおかつ納得させられるような……。思い通りにならない自分が悔しい。
 そして、イタリアにつまらなそうだと感じさせてしまった。その事実がショックだった。
「やめないほうが良かったのか?」
「うん……」
 思わず大きなため息を吐いた。そして、イタリアがじっとこちらを見ていることに気づき、付け加えた。
「誤解のないよう言っておくが、今のはおまえにでなく、自分へのため息だからな」
「ヴぇ…? ……うん」
「さっきも言ったように、確かに俺はおまえと……、することを望んでいた。今だって変わらずそうだ。だがな。おまえがいつかキスを嫌がったように……、その……、それと同じように……嫌がるんではないかと、少し思っている」
「嫌じゃなかったよ」
「おまえは以前、嫌ではない、不満はないと言いながら、俺を躱し続けていたではないか」
 若干言葉に刺が出てしまい、すぐに重ねる。
「だが、それについてはもう怒ってないからな。お前の気持ちも知っているし」
「うん……、でもごめん」
「だから、無理させているのか、良いのか、よくわからん。普段はどっちだってかまわないんだが……こういった時は別だ。おまえに無理をさせてまで、することではないと思っているからして」
「俺、すっごくドイツとやりたいよ!」
 突如抱きついて、唇を重ねてきたイタリアを受け止めた。唇は吸い付き、何度も角度を変えて貪る。応えていると、体は徐々に伸し掛かってきて、最後にはほとんど胸が触れ合っていた。
「指の感じ……。まだ中に残ってる」
 中への愛撫の事だろう。
 ドイツはそっとイタリアの髪を梳いた。
「そうか……。嫌でないか?」
「うん。特別って感じ」
 イタリアは微笑んだ。泣いたり笑ったり本当に忙しい。だが、そこにどうしようもなく惹かれている。抱きしめた体を、宥めるように背をさすった。再び下半身が熱くなってくる。抱き上げ、ベッドの上へ横たわらせると、鎖骨の辺りに手をやり、頬にキスをする。
「ドイツ……?」
「では……、本当に嫌でないのなら、続きをしてもいいか」
「うん…!」
 少し間が開いてしまったので、再び中をほぐすことにした。ローションに手を伸ばすと、イタリアが自然と股を開いて待っていたので、少し面食らって……、だが嬉しくてキスをした。丁寧に中を探ってやる。
「んんっ……う!」
 ビクビクと体が震えるようになり、ドイツは様子を見ながら、自分の状態を確認した。予想通り、もう充分に挿入できる硬さに戻っている。再びイタリアに目を向けると、腰を浮かせるようにしたほうがいいのだと思い出し、側にあったクッションを下敷きにした。
「本当にいいな…?」
「うん……」
 イタリアの足を高く上げさせ、覆いかぶさる。
「念のため言っておくが…、ペニスをここにいれるんだぞ」
「う、うん……」
「さっきは指を二本入れたから…、太さとしては」
「あおってるの〜? ドイツ……。入れていいよ? ゆっくりしてね」
「た…ただの事実確認だ」
 付け加えるようにそう言うと、先端から少しずつ、中へ埋め込んでいく。やはり想像したよりずっと締め付けがきつく、無理があるような気がした。
「イ…イタリア…! 力を抜け……!」
「ふ……ふぇ……、抜いてるよぉ」
 この状態で抜き差しなど出来るはずがない。裂傷など、絶対に避けたい。ドイツは半分ほど行った所で引き返した。全部引き抜くと、イタリアの体から、一気に力が抜け落ちる。荒い息を吐き出し、目尻には涙が滲んでいた。すでにぐったりとしている。
「これ……、ほんとに、気持ちよくなるかなぁ……?」
 不安そうな声に、自信をもって返すことができなかった。
「おそらくな…。指でしたときに、気持ちよくなったろう? 同じようなことだ」
「どいつはどうだった?」
「俺のほうは問題ない。もうやめたいか?」
「ううん、もう一度してみよー……」
 その声に、再び腰を寄せた。ゆっくりゆっくり滑りこませていく。根元まで埋め込んだ時には、一種の感動すらあった。
「ん…んう、あぁ……」
 しばらくそのまま待っていると、イタリアも目を開ける。
「おれ、けっこー大丈夫かも……」
 そう言って力なく笑った顔がたまらず、ドイツは思わず腰を揺らした。
「あん……っ」
「動いてもいいか……?」
「うん…」
「すまん」
 イタリアの手をシーツに縫いつけ、しっかりと握ってから、ゆっくりとストロークを始める。温かい内壁がしっとりと性器を包みこんでいる。それだけでも気持ちが良いのに、そこへ摩擦が生まれると、思わず声が漏れそうなほど快感があった。
「イ……タリアっ」
「ヴェ…、どいつ……、感じる?」
 ドイツは軽く頷くので精一杯だった。
 指でした時の様子と比較すると、イタリアが気持ちよくなるのは、もう少し先だろう。眉間に皺がよっている。とにかく大して快感も与えないままに果ててしまうのは、プライドが許さなかった。なんとなく、もちは良いほうだと自覚はあったが、実際に交わってみるとそれが過信だったのだと気づく。そして策を講じる前に、最悪の状態が訪れた。
 イタリアがまだ緊張し、苦痛しか感じていない体内で果ててしまった。
 途中で抜くことはできたが、もう遅い。ドクドクと溢れる精液を、できる限りイタリアの目から隠そうとした。
 荒く息を吐き出した後、体下のイタリアは不思議そうな顔をしていた。しばらくぼんやりしてこちらを見ていたが、ティッシュに手を伸ばした時点で気づいたようで、後ろに肘をつき身を起こす。ドイツは手早く自身を拭ったが、心底情けなかった。
「ドイツ」
 イタリアはニコニコし、何故か股間に手を伸ばしてくるので、肩を抑えて止めた。
「すまん、こうなるとは……」
「いいよ。ねぇ気持ちよかった?」
 そう真正面から問われると、照れがあり、どうにも頷く気がしない。だが、また誤解を招いてはいけない。逡巡した末、イタリアの目を見て言った。
「そうだな。気持ち良かった……」
 恥ずかしさに頭が真っ白になる。イタリアは微笑んでいた。
「俺も〜」
 笑顔が愛しくてたまらず、再びイタリアを抱き寄せた。ここまで来たのだから、どうしても全てやりとげたい。唇を合わせると、イタリアもすぐ腰に手を回してきた。ただ肌を合わせることがこんなにも気持ちいいとは。キスをしながらゆっくりと押し倒した。
「俺さー、ドイツに乗っかられるの好きかも」
 イタリアは首を包みこむように手を伸ばしてきた。
「……こういう状態がか?」
「うん。前は重くてやだったけど、今はすげー安心する…。ハグしてるときと似てるね」
「俺がおまえに乗ることなどないだろう」
「そうかなぁ」
 ソファでくつろいでいる時も、椅子に座る時も、寝る時も、上に乗ってくるのはイタリアのほうだ。ドイツが覆いかぶさることなど、滅多にない。
 重いと自覚があるし、イタリアが文句を垂れるのも想像がつく。
 だが思考を巡らせるうち、唯一、積極的にそうしていた時期のことを思い出した。イタリアを誘おうと必死になっていた頃だ。結局躱されてばかりいたが……。
「まぁ……、あったかもしれんな」
 胸下のイタリアを見つめた。
 恐怖心も薄れ、受け入れる気になったのだろう。ハグしていると同じ気持ちでいてくれたら、嬉しかった。なかなか感慨深い。
 太腿を撫でていると、イタリアは腰を擦り寄せてきた。股を開かせそこへ性器を充てがう。とても自然だった。確認をしなくても、望まれているのがわかったが、やはり念のため訊いた。
「もう一回、していいか?」
「うん? いいよ」
「言っておくが、さ…さっきのは充分に気持ちよかったのだぞ。ただ、おまえが…、こうして達する様子がみたいのだ」
「わ〜えっち……」
 イタリアの軽口だとは思ったが、聞き流せなかった。頬が熱くなる。しかしここで引くわけにはいかない。
「えっちなドイツ、いいと思うよ俺……、んんっ」
 ゆっくりと挿入する。さっきよりずっとスムーズだった。
「……ん、どいつぅ……」
 緊張がほぐれたせいなのか、慣らしたせいなのかわからないが、イタリアも今度はそこまで苦しそうでなかった。むしろ…、性器を弄っている時の反応に近い。そう思うと、つい右手をイタリアの股間へもっていった。半分ほど勃ち上がっているそれを掴み扱くと、イタリアの足が腰に絡み付いてくる。
「すげー、きもちいです……」
 堂々とそう言ってくるので、呆れつつも、ドイツは気分が良かった。そうして自分も、素直に感想を伝えたいという気持ちにもなった。再び後ろへの刺激だけにもどしても、聴こえてくる声色は好ましいままだ。
「どいつ、あっ、あん…、もっとして、いいよ」
 少しずつ腰の突きを速めていった。合わせて、イタリアの声も高まっていく。
「あ、やぁ…、んっ、きもちいよう…! どいつ」
 イタリアの口は半開きで、常に甘い声が漏れていた。目は薄く開いている。
 時折視線が合うと、驚くほど胸が高鳴った。もっともっと快楽を与えてやりたい。
 声に自信がないと話していたせいか、たまに手の甲で口を抑えるような仕草をする。それが余計に興奮を煽った。
「ん、んぅ…… すごいよぉ」
 抜き差しをしながら、イタリアを撫でる余裕もある。
「きもちいいよ…、だいすき…!」
 腰を半ば抱えるようにして、深く突いていった。苦しそうなほどに息が荒かったが、それはドイツも同じだった。イタリアの中はまさに今、程よい締めつけになっていて、動かしやすかった。
 少し腰を休めると、イタリアのほうから誘うように腰を揺らしてくる。
「めちゃくちゃ、感じてるよ……」
「見ればわかる」
 いつものようにそっけなく言ってしまったあと、反省し、改めてイタリアの目を見た。
「俺も…だ」
「えへへ…、おんなじだねー。嬉しい」
 イタリアは、はにかむと少し首を傾けた。
「隊長にっ…、もっとえっちなことされたいであります……」
「おまえは…!」
 たまらずに腰を動かした。
 激しく突いてやると、イタリアは驚いていたが、そのうち目を閉じ、気持ちよさそうに喘ぎはじめた。その声がたまらなく可愛いので、余計に力が入る。
「どいつ、や、あぁっ、もう……! むりっ…」
「…っ、おまえが、欲しいと言ったんだろう!」
「そーだけどっ……、やぁ、あ、いっちゃうよぉ」
「いいぞ、ほら……」
「だめ、俺っ…、もっと…どいつと、いちゃいちゃしてたいんだよう…」
 感極まったせいなのか、なんなのか、イタリアは拗ねて涙を流し始めた。最後の方は快楽というよりも、イタリアの喘ぎ声が聞きたいために、攻めていたような気がした。

 ***

 軽くシャワーを浴びた後、二人でベッドに入った。上機嫌のイタリアはすぐに頭を寄せてくる。
「ドイツはさー、あんまり声ださなかったね」
「ん? まあな…」
「俺が出しすぎ?」
「そうでもないぞ」
「……俺の声、変じゃなかった…?」
「ああ」
「ふっふっふ」
 微笑みながら、肩に額を擦りつけてきた。
「なんで今まで怖がってたんだろ…。ごめんね、ドイツ」
「それは……、きっと俺が怖がらせていたのだろう」
 なんだか妙に照れくさかった。いつも何気なくしている行為が、特別に感じられる。ハグも、キスも……。イタリアがニコニコして話しかけてくることすら、新鮮に感じた。どういう気持ちの変化なのかはわからない。電気を消すと、イタリアが胸板に頭を乗せてくるのがわかった。確か付き合う前は、こんなふうにして寝たことはたくさんあったのだ。ようやくもとの状態に戻れた。イタリアの頭を撫でながら、ずっと訊きたかったことを口にする。
「イタリア、また、こういうことをしても……」
「うん、またしよーね。明日がいいなぁ」
「明日か」
「うんうん」
「そうか…、よし、明日な」



2011.12.24〜2012.1.1(2012.03改稿)
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