昼下がりのロマーノ3

「あれーっ! なんや、奇遇やなぁ」
「わ、ほんとだ!」
 スペインの顔を見て、そういえばこの店はスペインに最初連れてこられたのだと想い出す。
「ちぎー……、偶然だな」
 目の端でテーブルの向こうのドイツを見ると、引きつった笑顔になっていた。4人席だったので、イタリアとスペインは、間を埋めるように座った。奥がスペイン、手前に弟。
「スペイン、おまえどうしたんだよ」
「会いたいから来たに決まっとるやーん。イタちゃんち行ったら出かけたって言うし、もうなんか二人で食いいこうゆうてな」
「ふーん」
「兄ちゃんたちは?」
 そう聞かれて、少し考えた。ドイツに奢らせるのも今日でもう4回目だが、やっぱり気にくわない奴と食事をするのは面倒だし、この辺で終わりにしようと思った。
「広場でナンパしてたらこいつが声かけてきたんだよ」
「ドイツ、こっち来てたんだ」
「あ、ああ…、ちょっと仕事の関係でな」
「へー! 会えて良かったやん!! あ、イタちゃん先注文しよ」
 スペインは弟と注文を済ませると、ニコニコしながら尋ねてきた。
「何の話しとったー? 二人でどんな話してんのか興味あるわぁ」
「こいつの話だよこいつの」
 弟をあごで指す。
「ずっとケンカしてんだよ、この芋野郎とクソ弟が。俺はその相談に乗っていたわけだ」
「えーっ!!! そうなん?」
 スペインは目を見開いて弟を凝視する。
「ヴぇっ、でも…、ケンカ?かな。ケンカって感じじゃなくて……ね? ドイツ」
 弟はドイツに答えを委ねるように視線をやる。
「ああ……、そうだな。別にそれほどのことでは」
 そう言い合う二人に腹が立ってきて、歯ぎしりした。
「バッカじゃねーの」
「ほらほら、話してみ〜。何があったん?」
「俺がヴェネチアーノんとこ着いたら芋野郎が来てて、一緒にシエスタしてたんだよ! むかついて帰れっていったら帰った。こいつはまだ寝てて…」
「ロマが悪いんちゃうの」
「でもこいつがあとで芋野郎に電話したら、疲れててほんとは帰りたかったんだと!! 意味分かんねー! このクソ芋野郎」
「そーなん……」
 スペインはニコニコしながら立ち上がった。何故か背後まで回ってきて、肩に手を置く。
「じゃ、行こか」
「はぁ?!」
 スペインたちが来たせいで、まだ皿の半分も食べれていなかった。スペインは強引に腕を掴む。
「まだ食い終わってねーよ」
「野暮なこと言うなや。イタちゃん、俺の分も食っといてな」
 そう言って弟の頬にキスをする。
「う、うん……」
「ええ子やなぁ」
 店を出ると、すっかり陽は暮れていた。仕方無くスペインの横について歩く。
「なんや、むず痒くなってまうなぁ…、あの二人は」
「まだぜんぜん食ってなかったんだけど! ほんっとに奢れよな」
「何言うとるの、いっつも奢らせてるエエ男のくせに〜、まいるわ〜」
 スペインが横から腕を組んできたので殴った。
「あいつらって面倒だよな……」
「そうやなぁ、前はもっとイタちゃんも突っ込んでたやんなぁ…。最近二人ってどうなん?」
「何がだよ」
「やっぱり、進展があったんやろか。あんな変なふうにこじれとるならなぁ」
「何が」
「付き合うとるんやないの?」
「はぁ?!」
 大声をだして立ち止まり、スペインを睨みつけた。
「付き合ってるって、男同士だろーが!」
「心の狭いこというなや。愛は国境をこえるんや」
「性別だろ!」
 急いでレストランに戻ろうとすると、スペインは腕を掴んで引き止めてくる。
 言い合いになったが、今行ったらラブラブなところを見せつけられると説得され、想像して気持ち悪くなったので諦めた。
 それから近場で飲んで帰宅し、家でさらに飲みつつ弟の悪口をつまみに起きていたが、深夜を過ぎるとさすがにソファで眠り込んでしまった。
 結局、弟が帰ってきたのは次の日の朝だった。スペインに礼を言っているのが聴こえたが、むかついてずっと寝たフリをしていた。弟の足音が近寄ってくる。
「兄ちゃんもありがとう」
「……腹減ったぞ」
「朝ごはん作るね」
「イタちゃん寝てないんちゃう? 俺が作るわ」
「ううん、楽しかったから、まだ起きてたいんだ〜」
「ほな一緒に作ろか、何がええかな」
「おいヴェネチアーノ」
 相談しながらキッチンに向かおうとする二人の背中に声をかけた。
「芋野郎はおまえに飽きたんじゃなかったのかよ。疲れるんじゃないのかよ。…スペインと話してたけどよ。……もし芋野郎と付き合ってるとかいったらマジで」
「ヴェ、あのね、えっとそういう感じじゃないんだけど……」
 弟が頬を赤らめて微笑む。その先を聴く気が失せてまた寝転がった。続けて何か言おうとしたので、掴んでいたクッションを思い切り投げつける。
「腹減った!」
 スペインと弟はキッチンに消えたが、ドアを閉める前に聴こえた台詞に驚いた。
「イタちゃん。昨日の夜はなぁ、ロマも良かった言うて泣いてたんやで。イタちゃんが元気ないの、わかっとったみたいやから」
「スペイン!! 余計なこと喋ったらトマトの保存瓶全部叩き割ってやるからな!!!」
 起き上がって怒鳴るとなんだか疲れた。弟がリビングに入ってきた時カーテンを開けたから、朝陽が差し込み、ちょうどまぶたの辺りに刺さって気になる。乱暴にカーテンを閉め、朝飯ができるまで一眠りすることにした。
 


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2012.03.19