おまえのしてほしいこと 半年後7


 バスタブではなんとか堪えた。しかし出て体を拭き、イタリアがオイルを塗ると強行してきたあたりで、不機嫌になっているのがわかった。口が尖っている。何がいけなかっただろう。
 今度は、話の相槌は忘れなかったし、すべてイタリアの望むようにしたはずだ。
 最近はすれ違いが多かったので、僅かなひずみにも敏感になっている。イタリアの表情が渋いままなのを横目で確認してから、背と腹筋ばかりにオイルを塗りたくる手を、そっと握った。顔だけ振り返る。
「イタリア、さっきから同じ所ばかりだが」
「うん……」
「イタリア」
「なんにも感じない?」
 純粋に仲直りの印としてやっているのか、煽るためにやっているのか判断がつかなかったが、ようやく確実な言葉が出てホッとした。
 そのまま手首を掴んだ。全く抵抗はない。
「ねぇ、俺が今何したいかわかる…?」
 イタリアは一歩踏み出し、オイルを塗りすぎてベトベトだろう背にピッタリと胸を合わせた。その艶かしい感触に、全身が燃えるように熱くなった。
「おい」
「わかる?」
ゴクリと喉をならした。イタリアの胸から、鼓動が伝わってくる。眼を閉じ、息を吐き出した。このまま時を止めてしまいたい。
「ねードイツ……」
「イタリア、昨日のことだが」
「なに?」
「ああいったことは……、本当に初めてなんだ。今まで一度もなかった。誘ったこともない」
「わかってるよ」
間髪挿れずにそう返してきたイタリア。理解してくれているのだと感じ、本当に、心まで繋がった気がした。
「ありがとう。それと……、」
「うん」
「おまえが好きだ」
「俺もすき」
「何がしたいかも……わかる」
「ほんと?」
 振り返り、イタリアの首の後ろに腕をまわす。抱き寄せ、屈んで膝裏にも腕を通し、立ち上がった。
「ドイツ!」
 イタリアの声は、感嘆に近かった。
そのままバスルームを出て歩き、奥のベッドまで運ぶ。ゆっくり下ろすと、寝転がったイタリアは微笑んでいた。
「すごいね、俺より俺のことわかってるみたい」
「それは良かった」
 イタリアのなめらかな肌。自然であるはずなのに、美しく投げ出された手足。呼吸して安らかに上下する胸。
「俺も……、ドイツのしたいこと、わかるよ」
 ベッドに腰掛けると、イタリアの足が胴をはさんだ。仰向けのままずるずると近づいてきて、最後には柔らかな太ももが腹筋に触れた。イタリアは後ろに手をついて上半身を起こした。
「ごめんねドイツ、俺、今まで勝手だったよね」
「そんなことは」
「ほんとは、えっちなことしたいのか、自分でもよくわかんなかったんだ……」
「なんだ。そうだったのか」
「なんか言い難くて、ごめん。ドイツのこと大好きだし、好きって言ってくれるなんて嬉しいけど………。でもドイツが俺のこと抱きたいとか、すげー変なかんじするんだよ。俺別に、変わったっていうわけでもないしさ」
「俺が鈍感だっただけだ。自分の気持ちに」
「そうかな?……こわいのはね……。こうやってドイツのこと、気安く足で挟んだりできなくなるのかなって。だってえっちなことみたいにもとれるから。キスもハグもだけど……こういうのも俺大切なんだよ」
「何も変わらない、約束する」
イタリアの膝頭に何度もキスをした。
「いつだって足で挟んでいい。俺はおまえのものだ。愛してる」
 顔を上げると、頬を赤くしたイタリアが、じっとこちらを見つめていた。やがて腕を伸ばし抱きついてくる。
 しばらく抱擁を堪能し、首に巻き付いたイタリアの腕を少し緩めてから、溜息をつく。くせになってしまっているので、大きな意味はない。そうしなければやりすごせないほど、イタリアはいつでも、心を強く揺さぶってくる。
「愛してるよ」
 耳元でささやかれた言葉は、もう何度も聴いていたはずだが、驚くほどに新鮮だった。自分の何もかもが、新しく生まれ変わった気さえする。
「イタリア……」
 何度も口付けながら覆いかぶさり、シーツの上でゆっくり指を絡めた。

END

2012.7.27


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