恋に目覚めたら番外 後編

 出会って、離れて、腐れ縁のように続いた友情は、決して平穏なだけの日々ではなかった。
 ドイツはイタリアの興味を引こうと、いつからか自分を出し惜しみしてみせるようになった。素っ気ない態度を作った。焦らして、与えてやらないこともままあった。本当の自分を見せれば、途端にイタリアは飽き、どこかに行ってしまうような気もした。イタリアの心を繋ぎ止めておく方法を、考えるようになった。
 けれど、それが真の友情であるか、ドイツは常に自問自答を繰り返した。駆け引きのようなことをしていると気づいてからは考えを改めたが、心のままにイタリアに優しくするのは勇気がいった。
 気恥ずかしさだけではなく、ドイツは何かを恐れていた。
 追いすがるほうになってはいけないのだ。優位にたっていなければと、心のどこかで思っていた。
 しかし、イタリアに触れるたび、そんなことをしている自分が情けなくなる。触れれば、思惑や概念はどうでもよくなってしまう。イタリアは、笑顔が好きだと言ってくれた。だが、それを言ったら自分だってイタリアの笑顔に、助けられているのだ。もう数えきれないほどだった。

 ドイツが一番最初に手に入れたのは、唇ではなかった。
 触ってみたいという想いそのままに、淡く色づいたそこへ、思い切って触れてみた。
 イタリアの反応は、ドイツが想像したものと違っていた。ただ受け入れ、何の声も上げない。けれどびくりと肩が震えた。指先で摘んだ部分がやや固さを持ったのがわかった。指と指の間で揉みしだくうち、そこは徐々にしっかりと形を成していき、弄るのがおもしろくなってくる。
 ドイツは丁寧に続ける。捏ね回したり、時折、軽く引っ張ってみたりした。愛撫のうちに、イタリアはくぐもった声を漏らすようになった。耳元で囁かれるその声の、なんと官能的な事だろう。浅い呼吸や、つばを飲み込む音が聴こえた。体中の欲という欲が、一気に目覚め、動き出したようだった。
 ドイツはおもわず身を迫り出した。首にイタリアの腕が回った状態のまま、体重で押し倒し、勢いで左胸に唇をつけた。ついばむと、驚くほどの充足感がある。自分はこんなふうにイタリアを味わってみたかったのだと、今までのいくつかの不可解な衝動が腑に落ちた。
 いやらしく吸えば吸うほど、イタリアが感じているような気がして、ドイツはやめられなかった。舌でいくら苛めてやっても、まだ足りない。あいているほうの突起も丹念に手のひらで擦ってやると、ついにイタリアの腰がもどかしそうに揺れ、シーツにしわをつくった。
「んぅ……」
 想像と違った。露出に抵抗のないイタリアは、性交渉に関しても、もっと大胆で激しく、リードしてくるものだと思っていた。感じるままに喘ぎ、乱れるのだろうと思っていた。
 それが現実では、こちらが乗った途端、借りて来た猫のようにおとなしくなり、か細い声で鳴くだけだ。だが決して嫌ではないのだという証拠に、イタリアの手は、ドイツを離すまいと肩や首に触れ続けている。ドイツは勝手に、それを恥じらいなのだと解釈する。可愛いと思わないわけがない。そして同時に、思い切り気持ち良く、満足させてやりたいと思った。今度は右に唇を寄せる。わざと濡れた音を出して吸い付く。
 同性の乳首をこんなに懸命に舐める日が来るとは、思ってもみなかった。薄桃色で小さくて、可愛いじゃないか。ドイツはすでに愛着すら感じていた。触れば、イタリアがおとなしく従順になる。甘えた瞳で見上げてくる。
「……好きだよ」
 イタリアがはっきりと声を出した。
「あのね、こんなふうにされて……俺」
 ドイツはイタリアを完全にベッドの上に押し上げて、体の下に組敷く。すでにイタリアの股間は盛り上がっていたし、相対するドイツのものは完成されて、先端部分の生地にしみを付けていた。
「嬉しいよ……」
 言葉が紡ぎだされる唇に、ドイツはおそるおそる近づいた。緊張で呼吸が出来なかった。イタリアと合わさると、触れた部分全てが、燃えるように熱かった。


2011.02.24

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