「はあ……」
 イタリアはドイツの顔を見つめていた。
 両手を耳の下に添え、満足するまで唇を貪ったはずなのに、離れればまた口寂しくなる。
 夢中でキスをするうちに押し倒してしまったが、ドイツはもう慣れたのか、イタリアの背をあやすようにゆっくり撫でていた。
 イタリアは、普段と違って辛抱強く待ってくれるドイツのことが好きだった。急かさないし、ああしろこうしろと言わない。ドイツにはもっと積極的になってほしいと思うこともあったけれど、それは本当に稀で、不満というほどではなかった。
 寝転がったドイツを見て、イタリアは吐息を漏らした。仄かな光に照らされ、濃く陰影のついた肉体は、眼に焼き付いてしまいそうなほど淫猥だ。
 厚い胸に頭を預ける。聞き慣れている鼓動は、平常時よりずっと細かく脈打っていて、イタリアはそれが自分の為に起こっているのだと思うと嬉しく、幸福に浸ることが出来た。同時に、目の前の男にも同等かそれ以上の至福を味合わせてやりたいと強く思う。
 イタリアがドイツの愛撫にたくさんの声をもらしてしまうのは、もちろん体が気持ちいいからではあるが、それ以上に、いくら伝えても足りない愛を代弁する意味もあった。
 普段は本気にしてもらえないことも、閨では素直に受け入れ、喜んでくれることがある。そんなときのドイツには、いくら奉仕しても気が収まらなかった。
 ドイツは、体の上へ乗ったイタリアを少し支えながら、横に返した。斜め上で肘をつき、イタリアを見下ろしたドイツの右手は、足の付け根から膝裏を何度も撫でる。
「この、浴衣というのはいいものだな……」
「そうだね、おまえの体がもっとセクシーに見える」
 イタリアが笑ってそう答えると、ドイツは噛み付くようなキスをしてきた。それを捉え、深く互いを受け入れ求め続けて、顎がだるくなってきた頃にようやく、ドイツの手がイタリアの中心へと触れた。
「イタリア……」
 一度自分で処理してしまったとはいえ、待ちわびた手の感触はたまらなく気持ちがよかった。
 腿を撫でられるうちにイタリアの股はゆるく開いていたが、ドイツの手のひらが竿を包むと、愛撫をねだるように自分から限界まで開いてしまう。恥ずかしいという気持ちはあったが、それほどまでに望んでいたということを伝えたかった。イタリアは、結局我慢できずに言葉にした。
「触ってほしかった、俺……」
 ドイツは一度きつく眼を閉じただけで、何も言わなかった。しかし手は緩やかに動き出して、みるみるうちにイタリアを追いつめる。
 押し寄せる快楽に息を飲み、眼の縁には涙がにじんだ。
「……ドイツ」
 まだ理性があるうちに、あまり急いたり挑発したりするとドイツが照れてしまうことを知っているイタリアは、丁寧すぎる愛撫にしばらく耐えた。扱かれてはいるがなかなかピッチがあがらない。
 もどかしく切なかったが、最高に気持ちがよかった。イタリアは何もかもドイツのものになりたかった。
 ドイツの顔はすぐ真上にある。緊張した面持ちでじっと、喘いでいる自分を見つめている。
 イタリアはますます興奮した。まだいつもの凛々しさが残っているドイツの顔は、きっとこのあと、自分の心からの奉仕で朱に染まる。快感に眉を顰め掠れた声で、イタリア、と呼ぶだろう。そして我を忘れたように体を求め繋げたがる。想像しただけで心が躍った。
「ドイツ、ねえ……」
 もうそろそろ自分のことは充分だった。早く達したくて、ドイツの上体を引き寄せ甘えるように顔をすりつけた。
 するとドイツはそっと額にキスをする。イタリアの顔はますますにやけた。
「ドイツ」
 呼ぶと、もう一度額にキスが降ってくる。して欲しかったわけではないが、イタリアはしばらくそうやって遊んだ。
 途中でからかわれているのだと気づいたドイツは、少し不機嫌そうな顔をしたが、イタリアのキスを受け取ると、ため息をつきながら元通りになった。

         2010.12.03