【attention!】
【イベント用ペーパーより】
この小説は、
独×伊 伊×独
両方の成分を含んでます!
(と思ってかきました)
どっちでもいいっていうかた向けです……

鈍感ルートと片思いフェリです。
描写はフェリ→ルートへの耳舐めが上限ですので、
大丈夫そうなかたはどうぞー






 ふごふごの極意


「ふごふご……だと?」
 椅子の背もたれに肘をかけふりかえると、フェリシアーノがなんとも嬉しそうな顔をして立っていた。
「知らんな。俗語か?」
「やっていい?」
「だからどういうものなんだ」
「えーっと、後頭部を触るんだよ。後ろ向いて? ね、これならルートがなんかやっててもできるでしょ、俺すごくいいと思って」
 週末、家にやってきたフェリシアーノは、朝から兄さんと出かけた。急ぎの仕事があるので、相手はできないともとから話してあったので、ちょうど良く兄さんがフェリシアーノと遊んでくれて助かった。
 帰ってきたのはついさっきだ。楽しかったようで二人とも上機嫌だった。遅いので泊まって行くことにした、と報告にきたフェリシアーノが、部屋に居座ってもう一時間になる。ベッドに入る音がしたので、もう寝ただろうと思い込んで机に向かっていたが、足音に顔をあげると、フェリシアーノが背後に迫っていた。
「していい?」
「ああ……」
 机に向き直り待っていると、背中、首、後頭部に駆けて、ずしりとフェリシアーノの重みを感じた。最初は顎が頭頂に乗っていただけだったが、次第にもぞもぞと動きだし、フェリシアーノは自らの頭や顔をすりつけてくるようになった。
「おい」
「んー?」
「もう終わりだ、離れろ」
「終わりかぁ……」
 明らかに落胆した声をだして、フェリシアーノは一歩後ろに引いた。
「いやだったー?」
「これをするのは、何か意味が?」
「仲良しなかんじするじゃん」
「仲良しか……」
 今更ながら、フェリシアーノが自分とそうしたいのだという事実に、嬉しくなる。たまらなく気持ちが高揚した。こういうとき、自分の胸にあふれる感情を、言葉など使わずに、どうにかしてフェリシアーノに直接伝えられたらと思う。
 表現力が乏しいのは自覚していた。奔放なフェリシアーノの前では、そういった面において、強い劣等感を感じる事がある。だからいつも、口ごもってしまうのだ。



「これでは眠れん!」
 一ヶ月後、ところかまわずふごふごしてくるようになったフェリシアーノに、俺は辟易していた。人前でもするようになった。外では叱ればすぐにやめるが、家の中ではしつこかった。
 とくにベッドの中では長いので、横になったはいいが、フェリシアーノの気が済むまで、なかなか寝付けない。 
 今日もそうだ。俺は耐えかねて、ベッド脇のランプに手を伸ばした。そして起き上がり、寝転んだまま眩しそうに眼をこするフェリシアーノを睨みつける。
「いいかフェリシアーノ、ものには限度というものがある。おまえは楽しいからいいかもしれんが、俺はこんなに頻繁にちょっかいをだされて、眠れると思うか」
「うん……ごめんね。でもルートが可愛いからさー」
「可愛いのはおまえのほうだろうが!」
 怒鳴りつけても、フェリシアーノの顔には反省の色が見えない。こいつの性分だからしかたないと諦めているところもある。だがもしかすると、俺の叱り方がワンパターンなので、もう慣れてしまっているのかもしれない。
「とにかく、これからは節度を守ってふごふごを行うように」
「ねえルート、俺の気持ち、気づいてるんだよね?」
「なんだ」
「俺の気持ち! ……ルートのこと……好きって言う気持ち」
 俺のことを好いてくれているのはもちろん知っていたが、それは固い友愛であると信じている。だがそれにしても最近のフェリシアーノは、度が過ぎている。就寝時には決まって口にキスしようとする。ハグの回数は異常だし、一度くっついたらなかなか離れない。
「それにしたってやり過ぎだということだ」
「やり過ぎ? そうかなぁ……、俺、ルートにしたいことまだいっぱいあるんだよ」
「言ってみろ」
 睡眠妨害でなければ、それにこしたことはない。
「ぺ……ろぺろ」
「何だそれは」
「してもいい?」
「いいだろう」
 ふごふごと似たようなものなのだろうと思い、寝そべってフェリシアーノに背を向けた。
 肩に乗っかられ、フェリシアーノの体重を感じる。そして、左耳に柔らかく湿った、生暖かい感触が走る。思わず硬直した。
 耳内部に入り込もうとしているのが、フェリシアーノの舌だと気づいて顔が熱くなった。何か甘い味でもするかのように、唇は積極的に耳朶を吸った。
 覆いかぶさる体を思い切り押しのけ、身を起こす。力任せに起こされたフェリシアーノは、戸惑った様子だった。
「誰が舐めていいと言った!」
「だっ、だって、ぺろぺろしていいって言ったよー!」
「ふごふごの……その、縁者のようなものと思ったんだ! ……まさかこんな」
 さっきの艶かしい感触を思い出して、フェリシアーノから眼を逸らし、おもわず手で口元を覆った。
 その隙にフェリシアーノが首に抱きついてくる。もちろん、その顔は肩口にのっかり、唇は俺の左耳にあてがわれていた。
「ねえルート……」
 フェリシアーノの、いつもと違う落ち着いた声が、耳から体へそっと響いた。
 何度もキスをされ、舌が周辺をなぞるのに耐えた。その息が荒いことに気づいて、どうするべきか迷う。結局、フェリシアーノが一息つこうとしたタイミングで、その肩を押し自分も起き上がる。
「とにかく! これは禁止だ!」
「えーっ」
「卑猥すぎる。こんなことをしていたら、俺とお前の関係は、よくない方向へ進むだろう」
「どういうこと?」
「……いずれ対等でなくなると思わないか?」
「ルート……」
 そこまで言うと、フェリシアーノは急におとなしくなった。しつこくすがりついてきた手は収まり、俺のほうを見て呆然としている。
「ルート、俺のこと、そんなふうに思ってくれてたんだ」
「……なんだ、お前は違ったのか」
「だって俺、自分でもわかってるよ。いつもルートのこと頼ってばかりだし、助けてもらってばっかりだから」
 確かにそうかもしれなかったが、その代わりに、フェリシアーノから受け取ったものはたくさんある。きっと自分だけでは一生気づかなかったようなことに、気づかされることがある。それを差し引きして対等だと思っていた。
 フェリシアーノの眼のふちに、みるみるうちに涙がたまっていた。
「俺ね、ルートのこと見てると、心が洗われたような気になるよ。ごめんね、変な事しちゃったー、寝よっかぁ」
 笑顔になったが、細められた目尻から、頬にひとすじ涙が伝った。
「なに泣いてるんだ」
 見ていられなくて、手で適当に拭った。こいつはすぐ泣くので、涙に大きな意味がないのだろうと分かっていても、眼の前で泣かれると、いてもたってもいられなくなる。
「寝るぞ」
 ランプを消し再び二人でベッドに潜った。ようやく眠れる、と、息を吐き出したところで、横から声がした。
「ルート……、これからも仲良くしてね」
「もちろんだ」
 さっき怒鳴った事が響いているのか、フェリシアーノは少しも触れてこなかった。口と手は同時に動くやつなので、我慢しているのだろうと、微笑ましく思う。たまにフェリシアーノがやるように、ふとんの中でその手を探る。指を絡めると、すぐに強く握り返してきた。


END


2010.09.12