俺とおまえのホットケーキ

「飲み過ぎちまった……」
 窓からの陽差しが顔に当たって眩しい。
 カーテンはいつのまにか開いていたので、一度弟が部屋に入って来たのだろうとプロイセンは思った。
 ノックの音も気づかないほど寝入っていたが、仕方ない。帰宅したのは朝の4時だった。
 外は明るく、寝転んだまま壁の時計をみると、ちょうど12時になるところだ。起きるのが昼過ぎになるとグチグチ言われるので、どうにか身を起こす。服は昨日帰ってきた状態のままだ。シャツに酒と煙草の匂いが染み付いている。着替えをクローゼットから取り出して部屋を出た。ヒヨコは目に付くところにはいなかった。天気もいいので、出かけているのだろう。
 階段を降りて行くと、次第に意識がはっきりしてくる。階下から甘い匂いがふんわり漂ってきて、プロイセンは目を見開いた。急いで降りて行き、キッチンに飛び込むと、ホットケーキを皿に移している弟の姿があった。
「兄さ……」
「おおすげぇ!! 朝からホットケーキかよ!」
「もう昼だ」
 弟はプロイセンを一瞥してから、皿をダイニングテーブルへ移動させる。三枚重ねの生地上から、メープルシロップをたっぷり垂らし、バターも切って乗せていた。長方形だったバターは、生地の熱で柔らかくなり、やがてシロップと馴染んでいく。
 プロイセンはフォークとナイフを棚から取り出し、飲み物を用意して着席すると、弟に断ってすぐに食べ始める。一口大に切って口へ放り込むと、柔らかい感触と温かさ、きめの細かい生地の弾力を感じた。鼻孔をつくバニラとメープルシロップの香りが絶妙に混ざり合い、プロイセンは幸せに身悶える。バターの塩気もほど良かった。
「うめぇーーー!」
「それは良かった」
 淡々とそう答えた弟は、向かいで横向きに座っており、膝上の新聞を眺めている。
「あれ、お前は食わねーの?」
「俺も起きたのが遅かったから、一時間ほど前に適当に済ませた」
「じゃあこれ……」
「そろそろ兄さんが起きてくると思ったからな」
「すげぇ予知能力だな」
 プロイセンは切り分けた一口を、テーブルの向こうに突き出した。
「ほら食ってみろよ」
「いや、別にいい」
「ほらほら、食え食えー!」
 テーブルに手をつき立ちあがり、顔の前でフォークをうろうろさせると、弟はようやく口を開いた。すぐに咀嚼し、飲み込んだあとに呟く。
「まあ……上手く出来たほうだ。70点くらいだろう」
「わかってねぇな!!」
 プロイセンは思わず、フォークを握った拳でテーブルを叩いた。
「超うめぇって言ってんだろ! ……ったくヴェストはよう。前に言ってた、ヴェストを褒める会、イタリアちゃんと結成してやるからな」
 ぼやきながら、残りのホットケーキをむしゃむしゃと食べ始める。
 弟は険しい目でプロイセンを見返したが、やがて、表情を和らげ微かに笑った。
「やめてくれ」
「ごちそーさん!!」



2011.04.14