ベッドのなか

「ドイツやっと来たぁ、早く早く」
 洗面所から部屋に戻ると、イタリアが我が物顔でベッドを占領していた。さっき部屋を出た時はいなかった。
 ドイツはその体を乗り越え、ベッドの壁際半分に身を倒し、イタリアに背を向ける。すると、指先でつつかれた。
「ドイツは寒くない?」
「今の季節なら普通と思える程度だ」
「俺背中が寒くて」
 仕方なく振り返ると、イタリアの肩はすくみ、わずかに震えている。触れると冷えきっていた。
「まったく……おまえは外にでもいたのか」
「さっきさぁ。星がすげーきれいでさ」
薄着のまま(もしくは裸に毛布一枚)で、風の吹き込む窓辺にぼーっと突っ立っていたのだろうと、ドイツは想像した。反対側を向くように促すと、イタリアがドイツに背を向ける。そのままずりずりと後退してきて、すっぽりと胸に収まった。
「ありがと〜、やっぱあったけー」
 イタリアの肌は、初めひやりとしたが、馴染んでくるとぬるく温かかった。気持ちいい。ドイツは疲れていたので、すぐにうとうとし始めた。
「おまえの、恋人になりたいな」
 意識が遠のいてきた頃その言葉が聴こえ、ドイツは一気に目が冴えた。
「そしたら毎晩あっためてもらえるもんね。最高だよ」
 イタリアはきっと、深く考えずに口にしている。
 ドイツにはそれがわかっていた。いままでの付き合いと経験から、大抵の冗談は聞き分けられるようになった。それでも期待する事をやめられないのは、なんというあきらめの悪さだろうと、ドイツは恥じる。
 イタリアがこうやって気軽にベッドに上がってくる今の関係を、変えるつもりはなかった。イタリアのほうから何かあれば……なんて甘い事も時折考える。イタリアの口から女性の話がでると、うまくいかない要因ばかり指摘して、遠巻きにいじめるのをやめにしたい。
 ドイツは潔く寝たふりをすることにした。それにしてもイタリアのうなじが香しい。ちょうど鼻の下に後頭部がきていて、正面から抱き合う時とは違う、無防備な状態に少しムラムラした。
「ドイツ」
 声の調子から、イタリアがこっちを向いたのがわかる。顔のすぐそばで声がした。
「もう寝た〜?」
 イタリアは身じろぎ、やがて仰向けになったようだ。何故かドイツの下唇を指でなぞり始めた。ドイツはその感触に驚き、一瞬、夢と錯覚する。唇はイタリアのおもちゃになっていた。次第に指の動きがむずむずと気になって仕方なくなり、たまらずその手を掴んだ。
「何してる」
「えへ……、かわいいね」
 イタリアは答えになっていない、適当な相槌を返してくる。
「ねえねえドイツ、俺の話きいてた?」
「ああ」
 少し乱暴にイタリアの腹へ手を回し、より密着するように抱き寄せた。イタリアがクスクスと笑う声が聞こえる。イタリアの気持ちなど、わからないのなら、わからないままでいい。ドイツは、この声をずっとそばで聴いていたいと思った。



2011.02.01