バーンでダーンでもちに会いに行く

※ヘタファン3のネタバレ含みます!!

「はー! もうまじでバーンでドーンでおもしろいことないん」
 ポーランドは自室で椅子に座り、足をぶらぶらさせながら一人愚痴た。
「せっかく休みなのに寝たいって何なん?」
 昨日の夜、リトアニアに電話をかけたが、今週は激務だったため、週末はゆっくり休みたいのだという。
 しつこく食い下がると、まだ話している最中なのに、強引に話をまとめられ、電話を切られてしまった。
「こーゆー日に限って、みんな忙しそうにしてるんよ」
 憂さ晴らしをしたくて他にもいくつかあたってみたが、ことごとくフラれてしまった。
 朝起きても、気分を引きずっていてすっきりしない。こういうときはオンラインゲームでも……。
 この間はとても強い敵が現れて、イタリアと一緒に撃退したのだ。思い出しても、あの時の自分は格好良かった。
 パソコンの電源を入れると、ふいにエストニアのことが思い出された。ゲームの設定ができなくて半泣きだったところへ颯爽と現れ、ものの数分で処理を終わらせてくれた。もちろん、心配したリトアニアから連絡がいって来てくれたようだったが、一人でも出来ると言いはってしまった手前、手伝ってもらったことは内緒にしてある。
「カチャカチャダーン! ってまじ早かったー……。あー! そういえばリトが…」
 この間会った時、エストニアの家でおもしろいペットを飼い始めたらしいと、伝え聞いた。リトアニア自身もまだ見たことがないけれど、とてもめずらしくて可愛いものだから、機会があれば見に行きたいんだよね、と……。
 ポーランドはすぐさまエストニアに電話をかける。
「ポーランド? お久しぶりです」
「エストニアー! 久しぶりだし、リトにはアレ秘密にしとるよな」
「ああ、オンラインゲームの。もちろんですよ。最近どうです?元気にしていますか?」
「うんうん元気だしー! まじ元気だから! それで、エストニアんちでマジ可愛いペット飼ってるって聴いたんよ。見に行っていい?」
「え、今日? これから? 僕は家にいるしかまわないですが……。ちょっとPCを見張ってないとならないので、あんまりおもてなしできないと思いますけど……」
「そんなのかまわんし! リトも行くから全然平気だし! じゃー行くから!」

***

(はー、なんでこうなっちゃうの…)
 リトアニアは安らかな二度寝の途中で、ポーランドにひっぱり起こされた。エストニアの家に行くのだという。
 適当に着替え顔を洗い、寝ぐせも満足に直せないうちに、急かすポーランドに連れ回された。
 もう今日の予定はガタガタで、それも相手がポーランドなのであきらめてはいたが、一応文句だけは言っておこうと思う。
「ポーランドー……、昨日電話で話さなかったっけ? 疲れてるんだって」
「寝たいんならエストニアんちで寝ればいいんよ。俺もそうするし」
(もうだめだ)
 リトアニアは抵抗することを諦めた。エストニアの家についたら、本当にこの手を離してくれるのだろうか。
 昼過ぎには到着した、元気の良すぎるポーランドのノック音に、エストニアが顔を出す。
「やあ!お二人とも。ようこそ我が家へ!!」
 軽く挨拶を交わすと、エストニアは同情の目を向けてくる。
「手ぶらで悪いね。なんせ急に、今朝、ベッドから引き摺り出されて今に至るものだから……」
 言った後、ちらとポーランドを見やったが、本人はどこ吹く風である。二人を交互に見たエストニアは苦笑していた。
「かまわないですよ。僕も来てはいいと言ったけど、少しPCを見ていないといけないんです。度々部屋にこもると思うので……」
「あーっ、そうなの? もー、ポーランド!!相手の都合くらい聞くもんだよ!!」
 先に廊下の奥へ進んだポーランドに注意した。
「きいたし−!! エストニアが来ていいっていったんだしー!!」
「はは。一応、話したんですが、それでも来るっていうので……」
「ちょっとポーランド! 勝手に奥まで行かないで!!」
 ポーランドは、きょろきょろと何かを探している様子だった。
「どうやらポーランドは、うちのペットが見たいようです」
 エストニアは玄関の内鍵を閉めると、リトアニアを中へ案内した。
「ペット?」
「話しませんでしたっけ? こんな大きさで、白くて、柔らかくて」
「ああ!!」
 リトアニアは、そこまで言われてようやく思い出した。エストニアからペットの話を聴いて興味が湧き、ちょうどその日ポーランドにも会ったものだから、内容を話していたのかもしれない。
「そうだった、俺も見たいな」
「待っててください」
 エストニアはリビングの続き間から、その生物を連れてやってきた。
 いずれも白く、固めのゼリーのように弾力をもっている。楕円形だ。表情はすこしずつ違った。
 エストニアの腕に抱かれているのは、比較的おとなしく、柔和そうに見えた。くるんと巻いた触覚のような何かが一本横に突き出ている。
 勢い良く床を跳ねてきたのは、他より一回り大きかった。目がぱっちりしていて、今度は上向きに触覚が生えている。
「その子は食いしん坊で、ほっとくとなんでも食べるから、すぐ太っちゃうんですよ。最初はみんな同じくらいの体格だったんだけど」
「へ、へー……」
 その勢いのある生物の後ろを控えめに移動してきたのは、似た顔の生物だった。けれど、のんびりとした動作から、性格が違うのだろうなと読み取れる。くまの顔のポシェットをつけていた。
「こっちは照れ屋なんです。かわいいけど自己主張がたりないせいで、たまにその大きい子にいじめられちゃって」
「すげーし!!!」
 ポーランドは早速、一番元気で大きい生物を抱き上げた。
「まじやわらかいし!!! なにこれすげーし!!」
 はしゃぐポーランドを横目で見ながら、エストニアは胸元に抱いていたものを、リトアニアに渡した。
「この子はほんとに静かで、食べてる以外は寝てるかぼんやりしていますね。一番扱いやすいと思いますよ」
「あ、ありがとう…」
 受け取ると、思ったよりも重みがあり、じんわりと温かかった。エストニアは一瞬部屋を出ていき、つまみやすい菓子をいくつかと、湯気の立っている紅茶を持ってきた。ポーランドが来る時間なんて適当だろうに、こういうところは本当にそつない。促されソファに座った。
 エストニアは紅茶を置きつつ、絨毯に寝転び生物とのやりとりに夢中になっているポーランドに注意する。
「あ、ポーランド。その大きい子は雑食だから、お菓子強請られてもあげないでください。ダイエット中なんです。最初はレタスしか食べなかったんだけど…」
「うん、了解だしー!!」
 どうやってねだるのだろう?と疑問が浮かんだ。とりあえず、腿の上のおとなしい生物を撫でてみる。
「俺もよく見ておくよ。かわいいね。なんだかよくわからないけど…!! 夢中になるのもわかるよ」
 それを聴いたエストニアは、少し照れくさそうな……、しかし自慢気な顔で笑った。
「嬉しいですよ、ありがとう」
「これ、動物……? だよね。分類的には、ええと…何類?」
「その大きい子は、ある日勝手に家へ入り込んでたんです。野生種なのか…、他の二匹は、インターネットで手に入れたんですが」
「そんなとこで流通してるんだ?!」
「いや、僕も意外で。一匹だとどうも寂しそうだから、探してみたんです。僕もなんだかよくわからないまま飼ってるけど、そんなに世話はないし、毛も落ちないしなかなかいいですよ。疲れた時なんか、撫でてると癒されますし」
「あー、わかるかも。そうだね…」
 そう言いながら、膝上の生物を撫でた。
「では、しばらく失礼」
 エストニアを奥の部屋へ見送ると、リトアニアはソファに深く腰掛け、熱い紅茶に口をつけた。甘いはちみつの香りがする。
 膝上の生物は、よく寝ると言っていたがそのとおりで、落ち着いて5分も立たないうちに寝てしまったようだ。正面の顔らしき部分を覗き込むと、なんとなく寝ているのだとわかる。
 ポーランドは依然として、体格のいい生物とやりあっていた。
 くまのポシェットの子が、所在無さそうに部屋の隅からこちらを見つめていたので、笑顔で手招きする。にじり寄って足元まで来たので、ソファの上に引き上げてやった。窓から差し込む午後の陽光が暖かい。
 二匹は静かだったので、撫でているうちに眠くなってくる。何度かうつらうつらして、ハッと目覚めることを繰り返し、徐々に眠りへ落ちていった。
 自宅での二度寝は妨害されたが、結局この不思議なペットを見れたし、寝れるし、これでよかったのかもしれない。寝たいからという理由でポーランドの誘いを断ってしまったことに対して、少し罪悪感があったのだが、それは綺麗に払拭された。
 このペットを見てみたいという発言を覚えていてくれたのだ。強引なところを差し引いて、丁度よいということにしておこう、そう思った。
 その後30分もしないうちに、ポーランドと大きい子がケンカをはじめ、テーブルをまるごとひっくり返し後片付けに追われることとなった。
 


2012.01.31